あと30日で、他人に戻るふたり
「……そうですか」

言いながら、じゃあなんでないの、ともうひとりの私が頭の中で暴れ回る。

うろうろする私を見かねて、さすがに彼も気になったのかスマホを伏せた。

「……なにがなくなったの?」

ああ、来てしまった。一番聞かれたくない質問。

「……言えません」

「なんで?」

「言えません!」


一瞬、部屋がしんと静まり返る。
ちょっと、強く言いすぎたかもしれない。

たぶん、さらに私を怪しんでる。


「ヒントくらいは?」

やめて。クイズ形式にしないで。
そういう感じに持っていかれても、面白くない問題になってしまう。

絞り出すみたいに、濁して答える。

「……洗濯物です」

「それはそうでしょ。洗濯物の、なに?」


────詰んだ。


「……ブラです」

言った瞬間、終わった気がした。
もう、大地さんの顔は絶対に見れない。

「ブラ?」

無神経なひと!確認しないでよ。

「……ベージュのやつです」

なんで私、色まで言ってるんだろう。大バカ。

「ふーん。見つかるといいね」


こんなに恥ずかしい思いをして口にしたっていうのに、対する彼の受け取りが悲しいほど軽すぎる。

もう興味は失ったみたいに、伏せたスマホをまたいじり出した。

他人事にも程がある。
こっちは今、人生最大レベルで困ってるのに。


そのまま再び洗濯物とにらめっこをしていたら、おもむろに大地さんがソファから立ち上がった。

「風呂入ってくる」

「はーい……」

心ここに在らずで、気の抜けた返事を返しておいた。


絶対どこかにある。あるはずなのに。
いったいどこに行ったっていうの。

この家のどこかにあるのは間違いないのに。
返事をして!私のブラ!


「あー……」

遠くの洗面所から、間の抜けた大地さんの声が聞こえた。
その声の冷めた感じ、嫌な予感しかしない。


< 209 / 403 >

この作品をシェア

pagetop