あと30日で、他人に戻るふたり
「覚えててくれたんですね。ありがとうございます」

「まあ、俺も食べたかったし」


彼は並べるだけ並べて、さっさとキッチンを出ていこうとする。
その姿に、今朝の篠原さんの声が重なる。


「──あの、大地さん」

思い切って、声をかける。

彼は「ん?」と半分だけこちらを見た。


『好きかどうか、分からないです』
そう、篠原さんに言ったのに。

あぁ、やっぱり。
私、この人のこと好きなんだ。

分かってたはずなのに、改めて思い知らされる。


「今度、週末にでも…行きませんか」

「週末?どこに?」

「……食べ歩き」


大地さんはすぐには答えなかった。

別に答えに迷っている感じでもなく、ただ私を見ている。
その妙な沈黙が、逆に不安にさせる。

断られる方が可能性としては高いのに。傷つくことも覚悟していたのに。
どこかで期待もしている。

だから、ちゃんと言葉にする。


「ふたりで行きたいんです」


たぶんこの気持ちは、もう変えられないから。
あと少ししかふたりで暮らせないのも分かってるから。

だから、やりたいことは伝えなきゃ。
そういう気持ちで口にした、精一杯の今の本音。


答えを聞くのが怖いな、と思っているうちに大地さんは背中を向けてしまった。

……あ、言わない方がよかったのかも。
一瞬、落ち込みかけたけれど。


「ちゃんと起こしてよ。俺、休みだとなかなか起きられないから」


それだけ言ってキッチンを出ていく。

その背中を見送るだけで、苦しいくらい嬉しかった。


こんなふうに、誰かとの予定を待つのは久しぶりだった。



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