あと30日で、他人に戻るふたり
仕事を終えて帰宅すると、大地さんはまだ帰っていなかった。


────まあ、そうだよね。
だいたい先に帰ってくるのは私の方が多いんだから。

朝の篠原さんの話に感化されて、勝手に期待していた自分がいる。


また帰ってこないこともあるかもしれない。
今日は遅くに出社するって言っていたし、その分帰りも遅いのかもしれない。
なんの連絡もないのが、私たちの“お互いに干渉しない”ルールのひとつ。

そういうものなんだと割り切るしかないのに、どこかで彼の帰りを待ってしまうのも事実だ。


気を取り直して夕飯の支度をしよう、とキッチンに立つ。
冷蔵庫には、週末に買いだめしていた食材が残りわずかとなっている。


なにか買ってくればよかったかな、と思いながらもとりあえず適当に野菜を出していると。


玄関から金属音がして、「ただいま」という低い声。

あれっ、帰りが早い!


思わずリビングのドアを開けて廊下へ顔を出していた。


「あ、おかえりなさい!」

「うん。ただいま」


……なんか、私めちゃくちゃウキウキした感じでお出迎えしちゃってない?
ついつい声まで弾んじゃって。

大地さんはまだ玄関で靴を脱いでいる。


いつもと変わらない彼の顔と声を見てると、やたらと自分の浮き足立っている感覚が明確になり、すぐに顔を引っ込めた。

私、篠原さんにけっこうとんでもない相談しちゃったんだな。
今後もしも顔を合わせたら、「その後どう?旦那様と」って語尾にハートマークつきで聞かれそう。

それはそれで恥ずかしい。


羞恥心に襲われていると、リビングに入ってきた大地さんがすぐにキッチンに来た。

「美月、もうおかず作ってる?」

「あ、いえ。今からです」


ふっと振り向くと、彼が持っている白いビニール袋が目に入った。

中から、なにやらめちゃくちゃいい匂いがする。

私が釘付けになっているのを見て、大地さんの口元が綻んだ。


「前に食べ歩きしたいって言ってたけど。家で食べるのもいいかなって色々買ってきた」

「えーーっ!あの商店街に寄ってくれたんですか?」

「うん。なんか美味しそうなのいっぱいあったよ」


カウンターにパックごといくつか並べていく。
コロッケ、焼き鳥、アジの塩焼き。


……なに、この人。キュンとさせてくるじゃん。

なんて言えるわけもないので、まずはお礼を言う。

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