あと30日で、他人に戻るふたり
宣言通り、ちゃんと綺麗に焼き目がついた状態でしっかりとお好み焼きを返すことができた。

隣で拍手までしている男に、私はドヤ顔をしてみせる。

「ほらね?」

「正直、絶対無理だと思ってた」

「関西人は慣れたもんです」


サッとヘラでカットして、お皿にのせてソースとマヨネーズ、かつお節をかけてすぐに完成した。

私からすれば、パスタやチャーハンよりも簡単かもしれない。
これで満足してくれるなら、お安い御用くらいの。


部屋中にソースの香りがただよって、お腹が急に空いてくる。


ラグの上に座るなり、大地さんは「いただきます」とすぐに箸をつけた。
よほど楽しみだったらしい。

「うまっ」

素直な飾らない感想が、一番嬉しかったりする。

「こんなのでよければ、いつでも作りますよ」


口にしてから、自分でも“言いすぎたな”と思ってしまったのに、彼はそうは受け取らない。

「うん。俺は切る」

「……ふふっ、あはは」

声に出して笑ってしまって、でももう隠さず笑い続けた。

「大地さん、あんなになんにもできなかったのに」

「……そうだな」

「次は、いちょう切りと千切りですかねー」

「────なんだ、それ?新技?」


まだ他にも切り方あるの?くらいのテンションでいる隣は見ないようにして、お好み焼きを口れ運ぶ。

余り物にしては、本当に美味しくできたと思う。

このなんでもない時間が、なんて貴重で、なんてやわらかいんだろう。


ここで不意に明日のことを思い出して、ちょっとだけ気が重くなる。


「……あの、明日」

「明日?」

「夜、出かけてきますね。会社の飲み会で」

「分かった」


土日くらい、ふたりでいたかったな。

そんなセリフを言えるはずもなく。
胸にしまい込んで、私はお茶を飲み干した。

その代わり、別な約束を果たすべくすぐに話題を変える。


「日曜日、食べ歩きですからね」

「起こしてくれるんでしょ」

「はい。絶対に起こします」

「…まあ、任せるよ」


まだ、空気は緩いままだった。


テレビの音と、ソースの香り。

隣には、気だるそうにお茶を飲んでいる大地さん。


そんななんでもない夜が、今日はやけに愛おしかった。


この時間がずっと続けばいいのに、と。

思ってしまうくらいには、私はもう、
この生活に慣れすぎていた。




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