あと30日で、他人に戻るふたり
「何時に起きたんですか?」

「九時くらいかな」

「パンを焼く練習しててもいいんですよ?」

「いやー、焦がすだけだって」

他愛もない会話を交わしながら、朝ごはんの準備をする。


パンを焼いて、コーヒーを淹れて。

テレビでは旅番組が流れていて、ふたりとも特に真剣に見ているわけでもない。

休日らしい、ゆるい時間だった。


このまま、ここにいたいのに。
夜のことを考えると、なんとなく気が乗らない。


「今日の飲み会…、行かなきゃだめですかね……」

思わず漏れた声に、大地さんがコーヒー片手にこちらを見る。少し目を丸くしていた。

「なんで?行きたくないの?」

「いや、そういうわけじゃないんですけど。担当してた案件の打ち上げみたいな感じなんで、小規模です」

「苦手なやつがいるとか?」

「全然。そんなことは」


“苦手なやつ”に当たる人が、今日参加のメンバーには特にいない。
むしろ、はたから見たら「いいなあ」とまで言われるかもしれないくらいの人たち。

それなのに、どうして。


たぶん私、大地さんと一緒にいたいだけなんだろうな。


「予約もしてあるので、行きますけどね」

「めんどくさいと思ってるなら、俺なら行かないけどね」

────やっぱり、彼ならそう言うと思った。
予想通りで、笑いがこぼれる。


「……そういうとこ、いいですね」

「なんで休みの日にまで疲れなきゃいけないんだって思わない?」

「ですよねぇ」


一貫したその考えが、私にはまぶしくて。羨ましく思えてしまう。


「今回はお付き合いで、行ってきます」

「程々が一番だよ、何事も」

「……はい」

“程々”という彼らしい言葉に、ちょっとだけ心が軽くなった。



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