あと30日で、他人に戻るふたり
二軒ほど回って、どちらも満席で断られた時。

私から思い切って声をかけた。

「────あの、」


八代さんと中村さんが、ほとんど同時にこちらを向くのが分かった。


「もう…時間も遅いですし。終電も近くなってきちゃいましたし。今日はこれで解散、とかどうですか?」

言い切るかどうかのところで、「あっ!!」と八代さんから大きな声が出る。

驚いて私の言葉も止まった。

「なあ、もしかして穂村のマンションって、ここから近いんじゃない?中央線一本だよな?」

「えっ!マジで!?」

食いついてきたのは、もちろん中村さんだ。

彼なんかはもはや、ワイシャツもしわくちゃだし、ネクタイもゆるゆるだ。


「穂村ちゃんの家って、“あの”?」

「そうそう、野崎課長が言ってた“いわくつき”の物件」

「超行ってみてぇ!」

「俺も!なんかあったら面白くない?」

「待ってください!!!!!」


自分でも信じられないと思うような声が出た。

さすがに私の剣幕に、二人ともちゃんとフリーズする。


「勝手に…、話を進めないでもらえます?」


重くなりかけた空気を、八代さんの明るい声がいったんその場を変えた。

「穂村、ごめんごめん。そんな怒んないでよ」

「す、すみません。怒ってるわけじゃなくて…」

「うん。俺たちもデリカシーなかったよね」


あまりにもすんなり謝られると、こちらもいたたまれない。

自然と駅まで三人で歩きながら、

「さすがに押しかけるつもりじゃないよ、ただ気になってた部屋だったからさ」

八代さんは苦笑いしながら、中村さんを軽く小突いた。
彼もまた、「そうなんだよ」と苦笑いする。

「ノリでこんなんなっちゃって、穂村ちゃんごめんね」

「いえ…」

私が首を振ると、八代さんがふと腕時計を見下ろした。

「ただ、この辺もう全然店空いてないじゃん?こいつもまだ飲みたいとか言ってるし、コンビニで酒だけ買って、ちょっとだけ飲んで帰るくらいならアリかなって思っただけ」


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