あと30日で、他人に戻るふたり
終電までの時間を、たぶん彼は見ている。
たしかにまだ余裕はある。

だけど──八代さんはまだしも、中村さんは家に上げたくない気持ちが強い。

そしてやはり彼はどうやら、諦めていないらしい。


先ほどとあまり変わらないテンションで中村さんが眉を寄せる。

「えーーー。行きたい行きたい!行ってみたいなぁー!だめ?会社のみんなに自慢したい!」

「中村。お前のそういうゴリ押しが良くないんだよ」

「なんだよぉ」

拗ねたみたいに口を尖らせてしまった彼をなだめながら、八代さんはちらりとこちらを見た。

「もちろん、穂村が嫌ならやめるけど」


私はその八代さんの視線に、負けてしまった。

「……少しだけ、ですよ」

自分でも、押し切られたみたいな返事だと思った。
実際には本当にそうなってしまっている。

「終電までには絶対帰ってくださいね」


その瞬間、中村さんが少年みたいにジャンプして全身で喜ぶ姿が見えた。

「やったーーー!!」

「ちょっと!声!大きいです!」

「ルームツアーしていい?」

「だめに決まってます!!」


隣で笑う八代さんの横顔を見ながら、これで正解なのか自問自答してしまう。

────ここで思い出す。もっと、大事なことを。


「……すみません、行く前に連絡入れていいですか?」

「え?どこに?」

「えーっと…。同居人に…」


その言葉を口にした瞬間、先に反応したのは八代さんだった。


「あ!そうじゃん!一緒に住んでる男いるんじゃん!」

「え!?マジ?どういうこと?彼氏?」

すごい早さで中村さんが飛びついてくる。


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