あと30日で、他人に戻るふたり
会議が終わり、人がはけていく。

パソコンや資料をまとめていると、開発部の竹中さんがすぐそばにやってきた。


「穂村さん、土曜日は大丈夫だった?」

「え?」

なにかを誰かから聞いたのかと、思わず身構えてしまったけれど。

竹中さんがそういうことに首を突っ込むタイプとも思えなくて。
純粋にあの日、私を置いて帰ってしまったことを心配してくれているのが顔を見て伝わってきた。

「ごめんね、俺、つい急いで帰っちゃって」

「全然!大丈夫ですよ!むしろ、竹中さんは奥さんやお子さんは大丈夫でしたか?」

「うん、上のお姉ちゃんたちはまだ起きてたけど、下の子は寝てた。なんなら奥さんも家で飲んでた」

「あはは、ならよかったです」

なんの問題もない、ただの雑談。
平和な竹中さんの家族の話。心底ほっとする。


「穂村さんみたいな女の子を、ひとりにするのは間違ってたなって思ってさ」

「もう“女の子”って歳でもないんですけどね」


二人で話しながら会議室を出ると、待ち構えていたかのように八代さんが立っていた。


「……あ、穂村」

八代さんがなにかを言いかけて、ちらりと私の隣にいる竹中さんに視線を送る。

すぐさま察したのか、竹中さんが「じゃあ…」と立ち去ろうとしたので私もそれについていく。

「竹中さん、さっきの会議で上がってた件でご相談があるんです。開発部にこのまま行ってもいいですか?」

「え?うん…、八代くんは?いいの?」


後ろを振り向くと、八代さんがなんとも言えない顔でまだこちらを見ていた。

気まずそうというわけではなさそうだけど、たぶん私と二人で話をしたいんだろうなという雰囲気を出している。

こちらとしては、絶対に二人になりたくない。意地でも。


「すみません、急いでるので」

できるだけ不快感は見せないで、冷たく聞こえないくらいの温度でそれだけ言うと、彼はいとも簡単にあっさり引いた。

「そっか、分かった。お疲れ」


彼の軽いその口調を、少し前の私なら“余裕がある”と思っていた。

今なら、それだけじゃないことも分かってる。
“優しい”だけじゃ、信じちゃいけない人もいる。


私はそのまま竹中さんの隣を歩きながら、もう後ろを振り返らなかった。




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