あと30日で、他人に戻るふたり
今度は私が洗面所から半歩出た。

彼が顔を洗い出したので、パックをしたまま一度リビングに戻ると、すぐにダンボールが足に突っかかった。
あぁ、全然片付いていない。つらい。


ダンボールだらけのリビングを歩きながら、キッチンを見やる。
なんとなく、まだ使う気になれない。

昨日の夜にコンビニで買っておいたパンをもそもそ食べつつ、そのまま仕事へ行く荷物の確認をする。たぶん、忘れ物はないはず。


仕事用のバッグをリビングに置いたタイミングで、遠くの方から

「あっつ!」

という声が聞こえた。

急いで洗面所へ駆けつけると、流水で指を冷やす姿が見えた。


「大丈夫ですか?」

「これ、なに?めちゃくちゃ熱くてびっくりした」

ものすごく迷惑そうに、さっき私が電源をつけたヘアアイロンを指さしている。
思わず吹き出しそうになってしまった。

なるほど、この人は“女性の支度”を知らないのだ。

「毎朝、髪をアイロンしてるんで。覚えておいてください」

「アイロン?こんな熱いので?」

「じゃないと一日キープされないんです」

「…大変だな」


あんなにあちこち飛び跳ねていた彼の髪の毛は、どうやったのかちゃんとしていた。

蓋が空いたワックスがそのまま置いてあったので、「蓋は閉めてください」と注意するとめんどくさそうに閉めている。

「支度は終わりですか?私と交代してください」

「明日からはアイロンは遠くに置いてくんない?火傷しそう」

「検討します」


朝は、洗面所が戦場になりそうな予感がした。
そしてたぶん、この人との生活も。




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