あと30日で、他人に戻るふたり
玄関に向かったのは、ほぼ同時だった。


あちらは昨日と似たような、ラフな服装。
白いインナーシャツに上着を着ていて、スラックスもカジュアルだ。
エンジニアというのは、スーツ族ではないのか?

私は仕事に行く時はいつものオフィスカジュアルなので、昨日とは違う。


シューズボックスから履き慣れたパンプスを出して、さっと履く。
彼は昨日のスニーカーをそのまま履いている。

「……一緒に出るんですか?」

なんとなく聞いてみるも、彼は首をかしげた。

「え?うん」


ですよね。でもなんか、変な感じ。他人なのに。


誰もいなくなるであろうこの部屋を振り返り、

「行ってきます」と呼びかけてみる。

「…行ってきます」

後ろからも同じように聞こえてきた。

なにも考えてなさそうな目と合い、私はそこから逸らして「行きますか」とドアを開ける。


廊下は照明の明るさで、昨日ここへ来た時となにも変わりなく静かだった。

靴音がしないのは、カーペットが全部吸収してくれるからだ。


すると、エレベーターから降りてきた中年女性がこちらへ歩いてきた。エプロンをつけたままの、ゴミ出しでもしてきたみたいな姿。

私たちを見つけるなり、笑顔で近づいてくる。


「あら、お隣さんね!おはようございます!」

女性は朝からしっかりメイクもしていて身綺麗だった。左手の薬指に、指輪。“ご婦人感”がある。

「あ、初めまして。おはようございます」

「…おはようございます」

足を止めて挨拶を返すと、さっきと同じように後ろからも挨拶の声。
どうやら、外面はそんなに悪くはなさそう。そこも安心。


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