あと30日で、他人に戻るふたり
今までは、“問題が起きないように調整する”ことばかり考えていた。

営業と開発。 現場と設計。 スケジュールと予算。

どこかが揉めないように、滞りなく進むように。

そんなふうに間を繋ぐことが、自分の仕事なんだと思っていた。


でも昨日初めて、“その場所で過ごす人”を見ていると言われた。


たしかに私は、図面を見る時。

ここで子どもが立ち止まりそうだとか。 雨の日は混みそうだとか。 疲れた人が少し休めた方がいいとか。

そんなことばかり考えていた気がする。


「穂村さん、この資料の最新版ってどこ入れた?」

不意に別部署の社員に声をかけられて、私はすぐに顔を上げた。
その社員の手元の資料を確認して、即座に答える。

「あ、共有フォルダの第三階層です。今リンク送ります」

「ありがとー。助かるー」


やり取りをしながら、自然と指が動く。


昨日までと同じ仕事。 同じフロア。 同じ毎日。

なのに、少しだけ見え方が違っていた。


私は思っていたより、この仕事が好きなのかもしれない。
そう気づいた瞬間、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。



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