あと30日で、他人に戻るふたり
「いや、だって」
彼は持っていた書類を膝の上へ置いた。
「最初に、一ヶ月って約束したじゃん」
あまりにも迷いのない、早い返事だった。
悪気なんて、本当に一ミリもないみたいに。
彼がそう返してくるような予想はある程度はしていた。
それなのに。
ここまで好きにさせておいて。
こんな気持ちにさせておいて。
こんなふうに毎日一緒にご飯食べて、 笑って、 暮らして。
それでも。
“約束したから”で終わらせるんだ。
胸の奥で、ずっと押し込めていた感情が、一気に熱を持ち始める。
「約束はしましたよ、たしかに」
完全に戸惑っている顔をした大地さんの視線は痛いほど感じる。
でももう、自分が自分じゃない。
「だけど、そういうことじゃないんです」
「美月、ちょっと待っ…」
言いかける彼の言葉を遮った。
「じゃあ、大地さんの気持ちは?約束を守るだけ?それだけですか?」
しん、とリビングがより静かになる。
もう戻せない空気だけが、私たちの間に流れていく。
大地さんは、すぐには答えなかった。
ただはっきりと困ったみたいに眉を寄せて、一度だけ視線を逸らす。
「……そういうの、あんまり分かんない」
絞り出すみたいな声だった。
彼の返答に納得がいかなくて、聞き返す。
「分かんないってどういうこと?」
「いや、なんて言えばいいのか」
彼はそこで言葉を探すみたいに黙り込む。
「俺、自分の気持ちとかちゃんと考えたことなくて」
その瞬間、胸の奥が、音を立てて冷えていくのが分かった。
「じゃあそんなに簡単に優しくしないでよ」
言い逃げするみたいに、ソファから立ち上がる。
弾みで、彼の膝から新しい住まいの書類がはらりと落ちた。
でも、大地さんはそれを拾おうとしない。
動かないで座ったまま、私を見つめている。
「……もういいです」
この空気を作ったのは私なのに、この空気を切り捨てたのも私だった。
逃げ場はひとつ。寝室しかない。
後ろで大地さんが、なにか言おうとする気配がした。
でも結局、その声は聞こえなかった。
部屋のドアを静かに閉めると、大きく息を吐く。
────自分で自分の大切な時間を、消してしまった。
後悔だけが私を取り囲んだ。
彼は持っていた書類を膝の上へ置いた。
「最初に、一ヶ月って約束したじゃん」
あまりにも迷いのない、早い返事だった。
悪気なんて、本当に一ミリもないみたいに。
彼がそう返してくるような予想はある程度はしていた。
それなのに。
ここまで好きにさせておいて。
こんな気持ちにさせておいて。
こんなふうに毎日一緒にご飯食べて、 笑って、 暮らして。
それでも。
“約束したから”で終わらせるんだ。
胸の奥で、ずっと押し込めていた感情が、一気に熱を持ち始める。
「約束はしましたよ、たしかに」
完全に戸惑っている顔をした大地さんの視線は痛いほど感じる。
でももう、自分が自分じゃない。
「だけど、そういうことじゃないんです」
「美月、ちょっと待っ…」
言いかける彼の言葉を遮った。
「じゃあ、大地さんの気持ちは?約束を守るだけ?それだけですか?」
しん、とリビングがより静かになる。
もう戻せない空気だけが、私たちの間に流れていく。
大地さんは、すぐには答えなかった。
ただはっきりと困ったみたいに眉を寄せて、一度だけ視線を逸らす。
「……そういうの、あんまり分かんない」
絞り出すみたいな声だった。
彼の返答に納得がいかなくて、聞き返す。
「分かんないってどういうこと?」
「いや、なんて言えばいいのか」
彼はそこで言葉を探すみたいに黙り込む。
「俺、自分の気持ちとかちゃんと考えたことなくて」
その瞬間、胸の奥が、音を立てて冷えていくのが分かった。
「じゃあそんなに簡単に優しくしないでよ」
言い逃げするみたいに、ソファから立ち上がる。
弾みで、彼の膝から新しい住まいの書類がはらりと落ちた。
でも、大地さんはそれを拾おうとしない。
動かないで座ったまま、私を見つめている。
「……もういいです」
この空気を作ったのは私なのに、この空気を切り捨てたのも私だった。
逃げ場はひとつ。寝室しかない。
後ろで大地さんが、なにか言おうとする気配がした。
でも結局、その声は聞こえなかった。
部屋のドアを静かに閉めると、大きく息を吐く。
────自分で自分の大切な時間を、消してしまった。
後悔だけが私を取り囲んだ。