あと30日で、他人に戻るふたり
キッチンからは、コーヒーメーカーの音が聞こえる。

私がなにか言うよりも先に、大地さんは音がしたキッチンへ入っていった。

どうしようかそのまま立ち尽くしていると、声だけが飛んでくる。

「パン食べる?」


昨日のことなんて、もうなかったことになってるのかも。

そう思いながら「はい」とだけ言って、キッチンをちらりと覗いてみた。
慣れない手つきでパンをトースターにセットしているのが見えた。


──教えてないのに、焼こうとしてる。

じっとその様子をついつい見てしまう。


「……なに?」

「いえ、コーヒー飲みます」

不思議そうにしている彼に背中を向けて、ふたつコップを出して注いだ。


寝癖のついた髪、だるっとしたスウェット、まだ眠そうな顔。
代わり映えのしない土曜日の朝なのに、どこかやっぱり空気が張り詰めている。

そうなってしまったのは、自分のせいだ。

最後の週末なのに。


どうしてあんなこと、言っちゃったんだろう。


情報番組を見ながら朝ごはんかな、とリビングにコーヒーを持っていって、テレビをつける。

リモコンを置こうとして、ふと床に無造作に置かれたダンボールを見やった。


昨日なんとなく見ていた荷造りの様子。
そこからあまり進んでいないような印象を受ける。

そして彼がずっと読んでいた引越し関連の書類も、そのままテーブルに重なっていた。


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