あと30日で、他人に戻るふたり
ぶしつけに言われたその言葉に、一回で意味が飲み込めなくて沈黙が生まれる。

だいぶ時間を置いてから、

「────どうして?」

と聞けた。


「いや、なんか違うな」

大地さんはちょっと考えるように手を離さず、そのままゆっくり私の隣に座った。

「出ていきたくないから、やめる。俺の意思で」


『じゃあ、大地さんの気持ちは?』

そう問いただしたのは、紛れもない私だ。

いま彼が言ったのは、その答え。
それが分かって、一気に顔に熱が集まる。


「い、いや、ちょっと。急展開やめて」

私が口ごもっていると、彼は面白そうにそれを笑って見ていた。

「あと、ちゃんと約束は守るよ」

繋いでいない方の手で、乾かしたばかりの髪の毛を撫でられる。
やさしい触り方。

餃子を包んでいたあの手とは、また違うような。


「……なんの約束ですか」

顔が、もう近い。
目を逸らしているのに、全部が見えるくらいには。

彼はにやりと笑ったまま、目を細める。

「俺がここに侵入したら、どうするか約束したでしょ」

「……え?」


「俺の全財産、美月にあげるよ」


言われた瞬間、呆然とした。
ずっと前のことなのに、どうして今、それを。

“いらない”と言いたかったのに、言えなかった。


その言葉を消すように、飲み込まれるみたいに、キスをされた。



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