あと30日で、他人に戻るふたり
マンションへ戻る頃には、夜風が少しだけ涼しくなっていた。

昼間あんなに暑かったのに、夏の夜は不思議だ。


「配送メール、どうしたら来ると思う?」

「もう今日は来ないんじゃないですか?」

「いや、まだ分かんないでしょ。俺は諦めない」


そんなくだらない会話をしながら、エレベーターへ乗り込む。


最初は、変な部屋だと思っていた。


知らない男がいて、ルールを決めて、気を遣って。 いつか出ていく人だと思っていた。

でも今は違う。


あの部屋はきっと、 誰かが出ていく部屋じゃない。


ここで暮らした人たちが、 自分にとって大事なものを選ぶ部屋だったんだと思う。


仕事も。 人との関係も。 これからどう生きていきたいのかも。


私もあの部屋で、 ちゃんと自分で選ぶことができた。


「美月、開いたよ」

大地さんに呼ばれて顔を上げる。


開いたエレベーターの向こう。 見慣れた廊下の先には、もう“帰る場所”になった部屋がある。


そのまま自然に繋がれた手を、今度は私から握り返した。





⟡.·*.おしまい⟡.·*.




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