あと30日で、他人に戻るふたり
「なんとなく、新婚さんってわけでもないのかな?とは思ってたのよ。納得だわあ」

篠原さんはにこにこ微笑んで、私の持っている大きなおせんべいに視線を向けた。


「そのおせんべい、手で半分にするのは難しいから注意してね」

「あっ……はい!」

「じゃ、またね〜。今度うちにお茶しに来て〜」

「はい!ありがとうございます!」


篠原さんたちが遠ざかっていくのを見送りながら、聞こえないくらいの声で隣の大地さんが

「できない約束、するもんじゃないよ」

と言ってくるのだった。


「なんで?絶対行くんだから」

「気遣いすぎて疲れるだけだってー」

「ご近所付き合いって、大事なんですよ?」


私が文句を言っていると、先に大地さんがおせんべいの先端をパクッと食べた。

小気味いい音がして、彼は「うまい」とすぐに感想を述べる。


「半分こしないで、このまま食べるのがベストですかね」

「うん。たぶんそういうこと」

「……うまっ!」


私も食べてみたらエビの風味がしっかり生地に伝わっていて、本当に美味しかった。


「……美月」

ちょっといつもと違う声で名前を呼ばれて、どきっとする。

「……はい」

と遅れて返事をすると、大地さんは深刻そうな様子で目を逸らした。


「───配送メール、まだ来ない」


危うく、おせんべいを割ってしまうかと思った。




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