あと30日で、他人に戻るふたり
しん、と部屋に沈黙。
彼はもう、視線はパソコン画面に戻っていた。

「……邪魔だな」

「だーいじょうぶです!」

「うそだね」

納得していない声。

それが少しおかしい。吹き出しそうになって、こらえる。

ひとつをソファに置いて、体を預けた。
そして、もうひとつを抱きしめる。

「ほら、全然違う。気持ちいいですよ」

「ふーん」


見もしないで、気のない返事をされた。
────“邪魔”って言いたいんだろうな、と思ったけれど。あえて言わなかった。


数分後。

「……それ、貸して」


ふと彼に手を差し出されて、無言でひとつ渡す。
そのまま受け取って、彼が私の隣に座る。

背中に当てて、少し体を沈めていた。

そして一瞬だけ、手でクッションを押して、

「……ああ」

とそのまま、もう一度だけ軽く押す。


……何してるんだろう、この人。

思った瞬間、耐えきれずに吹き出してしまった。


「……ふふっ、あははは、なにしてるんですか」

「別に」

彼もふっと息が漏れるみたいに笑った。
すぐ近くで、その声が落ちる。

そっけないのに、ちゃんと笑っている。

それを見て、また少しだけおかしくなった。ツボにハマって、笑いから抜け出せない。


「ほらー!やっぱりクッションいるじゃないですか」

「まあ、たしかに悪くない」

気づけば、二人ともクッションを抱えたまま、同じ方向を向いていた。



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