彼と彼女の、最大の不具合
「かわいい」
「……っ」
茉白が一瞬で固まって、目を見開いたまま耳を押さえる。
「~~~っ、もう意地悪しないでくれる!?」
「はは」
だって仕方ないだろ、と思う。全部、茉白のせいだ。
ピン、とエレベーターが止まる音がして、ドアが開く。数人がぞろぞろと乗り込んできて、茉白の表情もスッと切り替わる。さっきまでの赤さなんてなかったみたいに、すました顔で資料を見つめている。
「(……ずるいだろ、これは)」
エレベーターの中は一気に人で埋まって、俺たちの距離も自然と近くなる。肩が触れそうな距離。その中で、右手がふと茉白の手に当たった。小さく、指先だけが触れる。茉白は気づいてるのかいないのか、顔はまっすぐ前を向いたまま。
ちら、と横目で見るけど、完全に仕事モードの顔。
「(ほんと切り替え早すぎだろ)」
そう思った瞬間、俺の方が限界だった。指先をそっと動かして、茉白の指を撫でる。そのまま自然に絡めた。ぎゅっと握ると、ほんの一瞬遅れて、茉白の肩がぴくっと跳ねる。
――顔、見なくても分かる。絶対赤い。なのに茉白は前を向いたまま、必死に平静を装ってる。その様子が面白すぎて、笑いを堪えるのがきつい。
「(……あー、かわいい)」
ピン、とまたエレベーターが止まり、乗っていた人たちが順に降りていく。
最後の数人が出ていって、空気がまた静かになる。俺たちだけが残った瞬間、ゆっくり手を離した。ドアが開く直前、茉白の横に寄って、小さく呟く。
「好きだよ」
「~~~っ!!」
茉白は声にならない声を漏らして、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。エレベーターのドアが開く。
「その顔じゃラボ行けないな?」
俺がそう言うと、一瞬の間のあとで茉白の肩がぴくっと動く。
「右京くんのバカ!」
後ろから飛んできた元気な声に、思わず笑いが漏れる。周りの社員が一瞬こっちを見て、すぐ「あ、いつものやつか」みたいな顔で視線を戻していくのがまた面白かった。