彼と彼女の、最大の不具合
① 相性の不具合

香坂茉白の場合




「だーかーら!こっちの方がどう考えてもいいでしょ!?品質と納期どっちが大事なわけ!?」


思わず机を叩きそうになるのをこらえながら声を張り上げる、香坂茉白(こうさかましろ)27歳。

世界展開している大手化粧品グループ『Lunaris Beauty Research』の研究開発部、スキンケア処方研究チームに所属している。


憧れだったこの会社のラボに配属されてから数年、自分で言うのもなんだけど、いくつものヒット商品に関わってきたし、周囲からの評価だって決して低くない。

むしろ順調すぎるくらいのキャリアだと思っている。


なのに——そんな私に、毎回毎回真正面から意見をぶつけてくる男が一人いる。


「品質と納期どっちも大事に決まってんだろ?だから、ここを見直せって言ってんの」


低く落ち着いた声で、けれど一切引く気のない口調。目の前で資料の一点を指し示しながら、相変わらず眉間に深い皺を寄せている。



右京天音(うきょうあまね)27歳。

研究開発部、製品化設計・量産最適化チームに所属する、私の同期。

超がつく合理主義で、夢とか理想とかよりも「実際に作れるかどうか」「市場に出せるかどうか」を最優先する現実設計男。

「いいものでも成立しなければ意味がない」が口癖の彼とは、正直なところ仕事のスタンスが真逆で、昔から馬が合わない。


「だからって品質落とすのは本末転倒でしょ!私たちが何のために研究してると思ってるの!」

「落としてねえよ、最適化って言ってんの。理想だけじゃ商品は棚に並ばないんだよ」


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