彼と彼女の、最大の不具合
「仕事の愚痴でもあるの?」
なんとなく気になってそう聞くと、山口は一瞬だけきょとんとした顔をして、それからすぐに笑った。
「違いますよ。普通に香坂さんと飲みたかっただけです」
「ふーん。なんで?」
軽い調子で返したつもりだったのに、山口は一瞬だけ視線を上に向けて、それから妙にあっさり言った。
「香坂さんのこと好きだったんで」
その瞬間、時間が止まった気がした。
「……は?」
頭が追いつかない。今、なんて言った?好き?誰が?誰を?
「えっと……ちょっと待って?」
砂肝を噛む動きが完全に止まる。飲み込むタイミングも分からない。
「好きでした。大学時代。もしかしたら今も未練残ってるかなと思ったんですけど、意外と大丈夫っすね」
さらっと言い切る山口は、まるで天気の話でもするみたいにビールを口に運ぶ。
「な、なんで当時言ってくれなかったの?」
「どう見ても脈なかったんで。香坂さん、人を好きにならないタイプの人間かと」
「私のこと、なんだと思ってるの?」
思わず言い返すと、山口は楽しそうにクスクス笑った。
「だから、今の香坂さん以外でした」
その一言で、さらに混乱が深くなる。
「どー見ても右京さんのこと好きってまるわかりですよ」
「うそっ!?」
わず声が裏返って出てしまい、自分でも驚くくらい大きな声だった。「ほら、やっぱり」と山口に即座に指摘されて、さらに追い打ちをかけられる。慌てて手で口を押さえるけど、もう遅い。だらだらと汗が流れてくる。
だって、邪な気持ちで仕事してるって思われたくないんだもん!いや、実際少しはその気持ちあるけれども!