彼と彼女の、最大の不具合
ビールを一口飲んだ瞬間、変なタイミングで喉が詰まりそうになって、現実に引き戻される感じがした。
「うわ、大丈夫っすか?」
山口がすぐにタブレットを操作して、追加のビールを注文してくれる。その手際の良さに、ありがたいような、情けないような気持ちが混ざる。
「串、これ食べます?」
「なにこれ?」
「砂肝」
「食べる」
そんな他愛もないやり取りが、逆に救いになっているのが分かる。考えすぎそうになる頭を、目の前の小さな現実が少しずつ引き戻してくれるから。
砂肝の串をかじると、コリコリとした食感が妙に心地よくて、さっきまでのぐちゃぐちゃした思考が一瞬だけ薄れる。そのとき、山口がじっとこちらを見ているのに気づいた。
「なに?」
「女子って、串から外して食べる人いるじゃないっすか。喉に刺さるししゃーないかもしんないすけど、香坂さん絶対そんなことしませんよね」
「…うーん?まあ、面倒くさいから?」
「はは。そういうとこいいっすよね〜」
軽く笑われて、少しだけ肩の力が抜ける。山口はアルコールが回ってきたのか、頬杖をついてニコニコしながら私の食べる様子を見ていた。
「そんなに見られたら食べづらいんだけど?」
思わず口に出すと、山口は肩を揺らして笑った。
「ははっ」
その笑い方が、昔と全然変わっていないことに気づいて、胸の奥が少しだけ緩む。
そうだ、山口ってこういう人だった。人懐っこくて、誰とでも距離を縮めるのが早くて、それなのにちゃんと人の表情とか空気を見ている。お人よしで、困っている人を放っておけないタイプ。大学のときもそうだった。研究がしんどいとか、やめたいとか、そういう愚痴を一度も聞いたことがない。