恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――外は雨上がりだった。

アスファルトは黒く濡れて、街灯の光をぼんやり映している。
夜の空気は冷たくて、息を吸うと肺の奥が少し痛んだ。

スマホを見る。
時刻は二十三時を過ぎていた。

太陽からメッセージが届いている。

『まだ会社?』

送信時刻は二十二時五十分。

続けて、二十三時三分。

『迎えに行こうか』

さらに、二十三時十分。

『返事がなかったら行く』

私は足を止めた。

胸の奥が、少しだけあたたかくなる。
同時に、焦りが込み上げた。

だめ。
来なくていい。
疲れているのに。
撮影で大変なのに。
私のせいで、また無理をする。

私は慌てて返信を打った。

『大丈夫。今帰ってる』

『来なくていいです』

『本当に大丈夫』

送信した瞬間、既読がついた。

『もう駅に向かっているから』

「……ばか」

小さくつぶやいたのに、声が震えた。

心配してくれた。
迎えに来ようとしてくれた。
それがうれしいのに、怖かった。

太陽が近づけば近づくほど、あの見えない悪意も近づいてくる気がした。
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