恋から逃げるのには理由(わけ)があって
最寄駅から家までは、いつも通る道だった。
表通りを行けば明るいけれど、遠回りになる。
いつもは裏手の細い道を抜ける。古いビルの間を通る近道で、街灯はあるけれど、人通りは少ない。

今日は表通りに行くべきだった。

そう思ったのは、細い道に入ってからだった。

背後で、足音がした。

ひた、ひた、と濡れた地面を踏む音。

私は歩く速度を少し上げた。

足音も、少し速くなった。

心臓が嫌な音を立てた。
バッグを握る手に力が入る。

考えすぎ。
たまたま同じ道を歩いている人かもしれない。
こんな夜に、こんな場所で、誰かが私を――。
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