恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「風早さん、顔色悪いですよ」

声をかけてきたのは、後輩の志村優斗だった。

いつの間にか給湯室の入口に立っていた彼は、私の手元とスマホ画面を一度見て、すぐに状況を察したような顔をした。
志村は、無駄に騒がない。
静かに周囲の温度を下げすぎず、でも必要なところだけ拾ってくれる人だ。

「芸能人のSNSって、宣伝も込みですよね」

彼は穏やかに言った。

「映画のアンバサダーなら、話題作りも仕事なんじゃないですか」

「それはそうだけどさあ」

同僚が少し不満そうに唇を尖らせる。

「でも、絵里奈ちゃんのコメントが意味深じゃない? 隣にいるだけであったかい人、だよ?」

「太陽さんですからね」

志村は淡々と返した。

「名前のせいで、誰が書いてもそうなりそうです」

その返しに、給湯室の空気が少しだけ緩んだ。

私は志村を心の中で拝んだ。
総務部の空気清浄機として表彰したい。副賞はコピー用紙でいいだろうか。たぶんいらない。

けれど、私の胸のざわつきは消えなかった。
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