恋から逃げるのには理由(わけ)があって
昼休みが終わるころ、スマホが震えた。

表示された名前を見て、私は息を止めた。

大空太陽。

『今日、映画のプロモーションの投稿が出る』

もう出ています。
給湯室を中心に、社内でも絶賛拡散中です。

続けて、もう一通。

『朝比奈絵里奈さんがアンバサダーに就任した。仕事の相手だ』

少し間があって、さらに。

『俺が連絡する立場じゃないかもしれない。でも、向日葵にだけは誤解されたくない』

指先が止まった。

誤解。

私は何を誤解するというのだろう。
私は太陽の恋人ではない。
妻でもない。
婚約者でもない。

一度目の人生では妻だったけれど、今の私はただの幼馴染で、求婚を断り続けている女である。
法的にも社会的にも、嫉妬の権利など一ミリもない。

私は震えないように気をつけながら返信を打った。

『私は誤解する立場ではありません』

送信。

すぐ既読がついた。

返事は、少しだけ遅れて届いた。

『それでも、向日葵は俺が誤解されたくない相手だから』

胸が、ぎゅっと縮んだ。

さらに一通。

『この前、怖がらせたから、今は近づかない。触れない。でも、気持ちは変わらない』

画面の文字が、まぶしかった。

太陽は一途だ。

それは、誰よりも私が知っている。
15年前の約束を抱えたまま、王子様になって迎えに来た人だ。
一度目の人生でも、秘密だらけの結婚生活でも、彼はいつだって私だけを見ていた。

今回だって、たぶん変わらない。

だからこそ苦しい。

太陽が私を好きなままだと困る。
でも、朝比奈絵里奈と親密そうに見えると胸が痛い。
< 116 / 179 >

この作品をシェア

pagetop