恋から逃げるのには理由(わけ)があって
番組の後半、司会者が笑顔で話題を変えた。
『今回、朝比奈さんは公式アンバサダーとして、かなり密に宣伝にも関わっていらっしゃるんですよね』
朝比奈絵里奈は、完璧な角度でうなずいた。
『はい。作品の世界観が本当に素敵で、少しでも多くの方に届けたいと思っています』
声まで透明だった。
しかも、ただ可愛いだけではない。
言葉の選び方に芯がある。
油断ならない透明感である。水晶で殴ってくるタイプだ。
司会者がにやりと笑った。
『太陽さんとは、撮影以外でも打ち合わせが多いとか。絵里奈さんから見て、大空太陽さんはどんな方ですか?』
来た。
私は思わず正座した。
洗濯物の上で正座。社会人としてどうかと思うが、今は膝の下のタオルに謝る余裕はない。
朝比奈絵里奈は、隣の太陽をちらりと見た。
太陽は少しだけ微笑んでいる。
仕事用の、穏やかな顔。
絵里奈はマイクを持ち直し、ゆっくり言った。
『太陽さんは、本当に誠実な方です。作品に対しても、人に対しても。隣にいると、自分もちゃんと向き合わなきゃって思わせてくれる』
スタジオが、少しあたたかい空気になる。
そこまではよかった。
問題は、その次だった。
絵里奈はにこりと笑った。
『私にとっては、今いちばん信頼できる、良きパートナーです』
時間が止まった。
良きパートナー。
テレビの向こうで、司会者が「おお!」と大げさに反応する。
共演者が笑う。
スタジオがざわめく。
太陽は、一瞬だけまばたきをした。
ほんの一瞬。
普通の視聴者なら気づかないくらい短い間。
でも、私は気づいた。
困った時、太陽はまばたきが一拍遅れる。
一度目の人生で、冷蔵庫のプリンを勝手に食べたことを私に詰められた時もそうだった。いや、今その例はどうなのか。もっとドラマチックな記憶を出してほしい、私の脳。
太陽はすぐに穏やかな笑みに戻った。
『ありがとうございます。朝比奈さんはアンバサダーとして、作品をすごく丁寧に見てくださっていて、僕も助けられています』
僕。
画面の中の太陽の一人称が、仕事用に変わっている。
私の前での「俺」ではない。
それだけで、距離を感じた。
司会者がさらに煽る。
『良きパートナー、という言葉、いいですね。映画のテーマが運命の恋ですから、ファンの皆さんも盛り上がりそうです』
朝比奈絵里奈は、笑顔を崩さなかった。
『ふふ。どう受け取っていただくかは、皆さんにお任せします』
爆弾だった。
清楚な笑顔で、ピンを抜いた手榴弾をスタジオ中央にそっと置いた。
しかも置き方が上品。
怖い。女優って怖い。
太陽は笑っていた。
でも、その笑顔は少しだけ固かった。
『今回、朝比奈さんは公式アンバサダーとして、かなり密に宣伝にも関わっていらっしゃるんですよね』
朝比奈絵里奈は、完璧な角度でうなずいた。
『はい。作品の世界観が本当に素敵で、少しでも多くの方に届けたいと思っています』
声まで透明だった。
しかも、ただ可愛いだけではない。
言葉の選び方に芯がある。
油断ならない透明感である。水晶で殴ってくるタイプだ。
司会者がにやりと笑った。
『太陽さんとは、撮影以外でも打ち合わせが多いとか。絵里奈さんから見て、大空太陽さんはどんな方ですか?』
来た。
私は思わず正座した。
洗濯物の上で正座。社会人としてどうかと思うが、今は膝の下のタオルに謝る余裕はない。
朝比奈絵里奈は、隣の太陽をちらりと見た。
太陽は少しだけ微笑んでいる。
仕事用の、穏やかな顔。
絵里奈はマイクを持ち直し、ゆっくり言った。
『太陽さんは、本当に誠実な方です。作品に対しても、人に対しても。隣にいると、自分もちゃんと向き合わなきゃって思わせてくれる』
スタジオが、少しあたたかい空気になる。
そこまではよかった。
問題は、その次だった。
絵里奈はにこりと笑った。
『私にとっては、今いちばん信頼できる、良きパートナーです』
時間が止まった。
良きパートナー。
テレビの向こうで、司会者が「おお!」と大げさに反応する。
共演者が笑う。
スタジオがざわめく。
太陽は、一瞬だけまばたきをした。
ほんの一瞬。
普通の視聴者なら気づかないくらい短い間。
でも、私は気づいた。
困った時、太陽はまばたきが一拍遅れる。
一度目の人生で、冷蔵庫のプリンを勝手に食べたことを私に詰められた時もそうだった。いや、今その例はどうなのか。もっとドラマチックな記憶を出してほしい、私の脳。
太陽はすぐに穏やかな笑みに戻った。
『ありがとうございます。朝比奈さんはアンバサダーとして、作品をすごく丁寧に見てくださっていて、僕も助けられています』
僕。
画面の中の太陽の一人称が、仕事用に変わっている。
私の前での「俺」ではない。
それだけで、距離を感じた。
司会者がさらに煽る。
『良きパートナー、という言葉、いいですね。映画のテーマが運命の恋ですから、ファンの皆さんも盛り上がりそうです』
朝比奈絵里奈は、笑顔を崩さなかった。
『ふふ。どう受け取っていただくかは、皆さんにお任せします』
爆弾だった。
清楚な笑顔で、ピンを抜いた手榴弾をスタジオ中央にそっと置いた。
しかも置き方が上品。
怖い。女優って怖い。
太陽は笑っていた。
でも、その笑顔は少しだけ固かった。