恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第23話 三度目のプロポーズ

手をつないだまま、私たちは事務所の会議室へ戻って「今後の対応」について話し合った。

橘蓮司のこと。朝比奈絵里奈のこと。私の会社周辺で撮られていた写真のこと。映画の宣伝をどう立て直すか。私の名前をどこまで守るか。

専門用語と固い名刺が飛び交う中で、私は何度か魂だけ退出しかけた。普通の会社員に芸能事務所の危機管理会議は荷が重い。私の得意分野は会議室予約の重複回避であって、芸能界の闇を裁くことではない。

それでも、太陽の手はずっと隣にあった。

彼が全部を背負おうとするたび、私は小さくにらんだ。
太陽はそのたびに、ほんの少しだけ肩をすくめた。

「一人で前に出ないって、約束したよね」

「……はい」

世界的俳優に敬語で返事をさせた女として、私はその日、地味に勝利した。
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