有罪愛
私は優那のためなら何でもできると天啓を受けたような心地になったあと、彼女に光を感じ、その方向だけを見つめて進んできた。
もしかしたら光を感じなかった暗闇の中に、まっとうに生きられる道があったかもしれない。
けれど、私はその道を見つけられなかった。それが現実だ。
そして何も分からない無垢な冬夜に己の汚泥をぶちまけ、すべての責任を負わせようとしている。
これが世間に知られれば、私は子を虐待した親として非難され、犯罪者となるだろう。
しかし涼子が私との約束を破らない限り、この事が世間にバレる事はない。
冬夜だってまだ小さいから、自分を〝被害者〟とは思わないだろう。
私は優那を愛しているのだ。
優那を愛し、おむつを替え、風呂に入れ、一緒に寝て具合の悪い時は仕事を放り出して病院に駆け込み、毎日毎日毎日毎日、毎日、優那の事だけを考えてきた。
今だって、生きている彼女が健やかに寝息を立てている事を確認しているだけだし、その存在を愛しているだけだ。
決して間違えてなどいない。
夫が妻を愛するのは当たり前の事だ。絶対に冬夜は死なせない。
私は優那にそっくりの彼女を、絶対に守って善い父親になるのだ。
『庸一さん……っ』
涼子の嗚咽が聞こえ、私は緩慢にそちらを見る。
『つらいなら頓服を呑んで寝なさい。子供たちは私が見ているから』
涼子は私を化け物でも見るような目で見て――、大粒の涙を流したあと、春佳を起こさないように静かに寝室を出て行った。
冬夜が育っていくにつれ、私は彼の中に優那の面影を強く見るようになった。
ふとした横顔や眼差し、凜とした雰囲気が記憶の中の彼女に重なり、冬夜の事がとても愛しく、自分のすべてを捧げてもいいと思うようになった。
だがそれ以外の部分――、自分の知らない部分を見ると、三神の汚らしい血が混じっているように感じ、触わる事すら嫌になる。
――駄目だ。
――私は彼女と約束して、冬夜を立派に育てると誓ったのだから。
私は愛しさと憎しみの狭間で苦しみ、よりいっそう冬夜を〝愛そう〟と努力した。
彼の中に優那を重ねて愛撫する時、冬夜は不思議そうな顔で私を凝視する。
――あぁ、そんな目で私を見ないでくれ、優那。
――私のような底辺の男が君に触れようなんて、おこがましいと分かっている。
――でも仕方がないじゃないか、私は親で君を愛する義務がある。
私はまるで阿修羅だ。
冬夜を慈しむ顔と憎む顔、他の人に見せる〝昼〟の顔を代わる代わる使い、どれが本当の自分なのか見失っている。
冬夜は自分が性被害を受けていると自覚していないが、無意識に怯えを感じているようで、春佳を可愛がる事でその不安を誤魔化そうとしていた。
涼子は私と冬夜の関係を直視できず、春佳にも愛情を注げず苦しんでいる。
彼女が精神的な発作を起こして泣き叫んでいる時、冬夜は自発的に春佳の面倒を見てあやしていた。
私たち家族は、いつでもひび割れた薄氷の上にいる。
小さな冬夜までもが様子のおかしい親にストレスを抱き、外の友達と遊ぶより妹を偏愛する事によって、自身を慰めようとしている。
いつか瀧沢家は崩壊の時を迎えるだろう。
私は滅びの日が訪れるのを知っていながら、それを止めようともせず、自身の心に大きな亀裂が入り、ポロポロと崩れていくのを感じつつ日々を送る。
最後の日が訪れたなら、すべて私の責任だ。
私さえきちんと〝父〟と〝夫〟をこなせていれば、家族は壊れずに済むと分かっている。
だが私自身、大きく壊れ、損なってしまった自分を救えずにいる。
涼子がどれだけ私に愛情を注ぎ『愛している』と言っても、彼女をまったく愛せなかったし、夫婦の役目を果たす事もできなかった。
――そう。私と涼子は春佳の育児が落ち着いたあと、何度か夫婦としてセックスできないか試みた事があった。
しかし私は涼子に性欲を抱けず役に立たないまま、涼子も私に恋情を持っているものの、男にのし掛かられるとトラウマを思い出し発作を起こしてしまう。
彼女は『庸一さんの子がほしい』と強く望んでいたが、私たちは夫婦として機能できないままだった。
その事が余計に涼子を苦しめ、彼女はいっそう冬夜を憎んだ。
冬夜が小学校で性教育を受けた頃から、彼は激しく私に反発するようになった。
優那が亡くなってから十二年、私は狂いゆく自分を誤魔化しながら自分の子ではない二人を育ててきた。
血は繋がっておらず、春佳にいたっては満足に愛せていないが、私はいっぱしの親のつもりでいた。
冬夜が刃向かえば『親に向かってなんだその口の利き方は!』と怒り、自分の意のままにならない優那に苛立った。
――このままでは、彼女はまた私ではない男を見るようになる。
――そうなる前に、私のものにしなくては。
それだけは駄目だと長年自分に言い聞かせていたが――、ある日私はとうとう禁忌を破ってしまった。
もしかしたら光を感じなかった暗闇の中に、まっとうに生きられる道があったかもしれない。
けれど、私はその道を見つけられなかった。それが現実だ。
そして何も分からない無垢な冬夜に己の汚泥をぶちまけ、すべての責任を負わせようとしている。
これが世間に知られれば、私は子を虐待した親として非難され、犯罪者となるだろう。
しかし涼子が私との約束を破らない限り、この事が世間にバレる事はない。
冬夜だってまだ小さいから、自分を〝被害者〟とは思わないだろう。
私は優那を愛しているのだ。
優那を愛し、おむつを替え、風呂に入れ、一緒に寝て具合の悪い時は仕事を放り出して病院に駆け込み、毎日毎日毎日毎日、毎日、優那の事だけを考えてきた。
今だって、生きている彼女が健やかに寝息を立てている事を確認しているだけだし、その存在を愛しているだけだ。
決して間違えてなどいない。
夫が妻を愛するのは当たり前の事だ。絶対に冬夜は死なせない。
私は優那にそっくりの彼女を、絶対に守って善い父親になるのだ。
『庸一さん……っ』
涼子の嗚咽が聞こえ、私は緩慢にそちらを見る。
『つらいなら頓服を呑んで寝なさい。子供たちは私が見ているから』
涼子は私を化け物でも見るような目で見て――、大粒の涙を流したあと、春佳を起こさないように静かに寝室を出て行った。
冬夜が育っていくにつれ、私は彼の中に優那の面影を強く見るようになった。
ふとした横顔や眼差し、凜とした雰囲気が記憶の中の彼女に重なり、冬夜の事がとても愛しく、自分のすべてを捧げてもいいと思うようになった。
だがそれ以外の部分――、自分の知らない部分を見ると、三神の汚らしい血が混じっているように感じ、触わる事すら嫌になる。
――駄目だ。
――私は彼女と約束して、冬夜を立派に育てると誓ったのだから。
私は愛しさと憎しみの狭間で苦しみ、よりいっそう冬夜を〝愛そう〟と努力した。
彼の中に優那を重ねて愛撫する時、冬夜は不思議そうな顔で私を凝視する。
――あぁ、そんな目で私を見ないでくれ、優那。
――私のような底辺の男が君に触れようなんて、おこがましいと分かっている。
――でも仕方がないじゃないか、私は親で君を愛する義務がある。
私はまるで阿修羅だ。
冬夜を慈しむ顔と憎む顔、他の人に見せる〝昼〟の顔を代わる代わる使い、どれが本当の自分なのか見失っている。
冬夜は自分が性被害を受けていると自覚していないが、無意識に怯えを感じているようで、春佳を可愛がる事でその不安を誤魔化そうとしていた。
涼子は私と冬夜の関係を直視できず、春佳にも愛情を注げず苦しんでいる。
彼女が精神的な発作を起こして泣き叫んでいる時、冬夜は自発的に春佳の面倒を見てあやしていた。
私たち家族は、いつでもひび割れた薄氷の上にいる。
小さな冬夜までもが様子のおかしい親にストレスを抱き、外の友達と遊ぶより妹を偏愛する事によって、自身を慰めようとしている。
いつか瀧沢家は崩壊の時を迎えるだろう。
私は滅びの日が訪れるのを知っていながら、それを止めようともせず、自身の心に大きな亀裂が入り、ポロポロと崩れていくのを感じつつ日々を送る。
最後の日が訪れたなら、すべて私の責任だ。
私さえきちんと〝父〟と〝夫〟をこなせていれば、家族は壊れずに済むと分かっている。
だが私自身、大きく壊れ、損なってしまった自分を救えずにいる。
涼子がどれだけ私に愛情を注ぎ『愛している』と言っても、彼女をまったく愛せなかったし、夫婦の役目を果たす事もできなかった。
――そう。私と涼子は春佳の育児が落ち着いたあと、何度か夫婦としてセックスできないか試みた事があった。
しかし私は涼子に性欲を抱けず役に立たないまま、涼子も私に恋情を持っているものの、男にのし掛かられるとトラウマを思い出し発作を起こしてしまう。
彼女は『庸一さんの子がほしい』と強く望んでいたが、私たちは夫婦として機能できないままだった。
その事が余計に涼子を苦しめ、彼女はいっそう冬夜を憎んだ。
冬夜が小学校で性教育を受けた頃から、彼は激しく私に反発するようになった。
優那が亡くなってから十二年、私は狂いゆく自分を誤魔化しながら自分の子ではない二人を育ててきた。
血は繋がっておらず、春佳にいたっては満足に愛せていないが、私はいっぱしの親のつもりでいた。
冬夜が刃向かえば『親に向かってなんだその口の利き方は!』と怒り、自分の意のままにならない優那に苛立った。
――このままでは、彼女はまた私ではない男を見るようになる。
――そうなる前に、私のものにしなくては。
それだけは駄目だと長年自分に言い聞かせていたが――、ある日私はとうとう禁忌を破ってしまった。