5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。

Season7. 海緒の過去



先生に手当を済ませてもらい、保健室のベッドの中で眠る海緒。

その寝顔は、さっきまでの地獄が嘘だったかのように、驚くほど穏やかで、優しい。

……せっかく、少しずつ距離を縮めてきたのに。
俺のことを「翔先輩」って呼んでくれるまでになったのに。

あんな凄惨な事件に巻き込まれて、
海緒の心にまた深い傷ができてしまったんじゃないか。

そう思うと、奥歯が軋むほど悔しさが込み上げてくる。

人の関係を、積み上げてきた努力を、一瞬でぶち壊しにくる「女」という存在は、やっぱり吐き気がするほど大嫌いだ。

あいつらの自分勝手な嫉妬のせいで、どうしてこの子がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。


「……海緒ちゃん、また独りになっちゃうのかな」


隣で椅子に座り、海緒の寝顔を見つめる佐原が、
消え入りそうな声で零した。

いつもおちゃらけているはずのあいつの顔には、
隠しきれない沈痛な色が浮かんでいる。

俺は何も答えられず、ただシーツから覗く海緒の手を、壊れ物に触れるようにそっと見つめた。


独りになんて、させない。


たとえ、海緒がまた心を閉ざしてしまったとしても、俺だけは、その壁を何度だって叩き続けると決めたんだ。


『……ん…………あれ、翔先輩……? 佐原先輩も……』


ゆっくりと開かれた瞳に、俺たちの姿が映る。
まだ意識がはっきりしないのか、海緒は不思議そうに瞬きを繰り返した。


「翔、ずっと海緒ちゃんが起きるのを待っててくれたんだよ」


沈黙に耐えかねたように、佐原が茶化すような、けれどどこか温かい声で言った。


「……それはお前もだろ」


俺がぶっきらぼうに返すと、海緒は一瞬だけきょとんとしてから、


『ふふっ……』


……笑った。
あんな地獄のようなことがあった後だというのに。

俺の、そして佐原の顔を見て、彼女は曇りのない、透き通った笑顔を見せてくれた。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥を締め付けていた重い鉄枠が、音を立てて外れた気がした。

俺も、そして隣にいる佐原も、言葉には出さないけれど、肩の力が抜けるような深い安堵に包まれる。

心に壁なんて、できていなかった。

それどころか、海緒はボロボロになりながらも、俺たちを「信じること」を、やめないでいてくれたんだ。
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