君だけのジミニー・クリケット
彼女は時間を弄ぶことに飽きたのだろうか。
僕が逃げ込んでいた、日陰の待合所へと近づいてくる。
年季の入った木のベンチに、彼女が音もなく腰を下ろした。
「バス……来ないね」
呆れたような、けれどどこか他人事のような呟いている。
小さなポシェットから取り出したハンカチで、彼女はそっと汗を拭う。
その仕草の艶やかさや、指先に触れるハンカチの上質な光沢までもが、今日の彼女が「日常」の枠の外にいることを物語っていた。
僕は、彼女のことが大好きだ。
交際して三年。大学生という身分ではあるけれど、彼女との『未来』結婚さえも、僕は現実のものとして考えていた。
けれど、今まで彼女の口から「母親」の存在が語られたことは、一度もなかった。
語られないということは、いないということ。
僕は勝手にそう解釈し、肌でそれを感じ、納得していたのだ。
そんな彼女が、なぜ今日、あんなにも唐突に「お母さんに会いに行こう」などと言い出したのか。
隣でハンカチを畳む彼女の横顔は、夏の光を反射して、まるで見知らぬ誰かのように美しかった。
僕が逃げ込んでいた、日陰の待合所へと近づいてくる。
年季の入った木のベンチに、彼女が音もなく腰を下ろした。
「バス……来ないね」
呆れたような、けれどどこか他人事のような呟いている。
小さなポシェットから取り出したハンカチで、彼女はそっと汗を拭う。
その仕草の艶やかさや、指先に触れるハンカチの上質な光沢までもが、今日の彼女が「日常」の枠の外にいることを物語っていた。
僕は、彼女のことが大好きだ。
交際して三年。大学生という身分ではあるけれど、彼女との『未来』結婚さえも、僕は現実のものとして考えていた。
けれど、今まで彼女の口から「母親」の存在が語られたことは、一度もなかった。
語られないということは、いないということ。
僕は勝手にそう解釈し、肌でそれを感じ、納得していたのだ。
そんな彼女が、なぜ今日、あんなにも唐突に「お母さんに会いに行こう」などと言い出したのか。
隣でハンカチを畳む彼女の横顔は、夏の光を反射して、まるで見知らぬ誰かのように美しかった。