君だけのジミニー・クリケット
 隣に座る彼女の横顔を盗み見ると、僕の心の中に小さな戸惑いの火種が爆ぜた。

「きっと喜ぶよ」と吐いた僕の嘘。

 彼女の危うい期待を煽っているのではないかという、かすかな良心の痛み。

 それは紛れもない罪悪感だった。

 それでも僕は、彼女の心に触れていたいがために、その嘘を手放せずにいた。
 やがて、遠くの陽炎を切り裂いて、バスが鋭くも鈍い金属音を立ててやってくる。

 透明だったはずの静寂が、排気ガスの匂いと蝉の声に掻き乱され、当たり前のような日常へと引き戻されていく。

 乗り込んだ車内は、逃げ場のない熱気に満ちていた。

 当然のように冷房など効いていない。
 誰もいない貸切状態の車内には、陽に焼けて熱を持ったビニールレザーの、鼻をつく独特な匂いが充満していた。

 僕は重いアルミのサッシに指をかけ、建付けの悪い窓を力任せに押し上げた。

 走り出したバスの窓から、火照った肌をなでるような、生ぬるい夏の風が吹き込んでくる。  

 左右の壁に沿って設えられた長いロングシートに、僕たちは身を寄せ合うようにして座っていた。
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