クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 羽田に帰って来たのは、空き巣事件から二日後の夕方だった。十四時間半のロングフライトを終え、十七時半に駐機場に入った。ペアを組んだ佐藤キャプテンと共に全システムをシャットダウンし、ログブックを書き終えてようやくシップを降りる。

 入国手続きを終え、クルー専用の関係者通路に出た瞬間、足が止まる。そこにはネイビーのジャケット姿の隼人さんが、壁に背を預けて立っていた。

「……隼人さん」
 隣を歩く佐藤キャプテンの目があるのに、駆け寄ってしまった。公私の区別はつけなければいけないと分っていたけど、隼人さんが待っていてくれたことが嬉しくて堪らなかった。
 そんな私の背後から佐藤キャプテンの声がかかる。

「南雲さん、高月機長のお迎え良かったね」
 佐藤キャプテンの軽やかな笑い声が聞こえ一気に頬が熱くなる。
「佐藤キャプテン、すみません。南雲を少し借ります」
 隼人さんが佐藤キャプテンに向かって口にする。
「こっちは大丈夫だよ。後のことはやっておくから、南雲さんはもう上がっていいよ」
「ありがとうございます」
 深く頭を下げると、佐藤キャプテンは軽い足取りでオフィスに向かって行った。
「お帰り。ロングフライトお疲れ様」
 隼人さんが労わるように制帽越しの私の頭を撫でる。
 大きな手の感触に頬が緩んだ。
「ただいま。隼人さん。ご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑だと思ってないよ。恋人として頼りにしてもらえて嬉しい」
 恋人という言葉にマリー橋でのことが浮かび、ドキッとする。
「どうした?」
 一人、顔を赤くしている私の顔を覗き込んでくる。
 動揺を悟られないように慌てて視線を逸らした。
「いえ、あの、まだやることがあるので」
「待ってるよ」
 またポンポンと隼人さんが私の頭を撫でる。大切なものに触れるような優しい触れ方だった。
「急いで片付けてきます」
 隼人さんにそう言い、オフィスに向かった。
< 102 / 143 >

この作品をシェア

pagetop