堕天使と悪魔は偽りの姫を欲しがる
「拐いはしないけど、一緒に来てもいいよ。……ただし、覚悟はしといてね」
そのとき初めて顔を上げた少女と目が合って、漆黒の瞳が、何かに驚いたように見開かれた。
そのあとすぐ、寂しげな、哀しそうななんとも言えない色が滲んだけど、それも一瞬だけだった。
その少女の見間違えかもしれないね。
でも、それを見たから少女はついていくことを決めたのかも。
「……一緒に行く」
「後悔しないでよ?俺は責任なんて取んないから」
「……私は、私の人生を自分で掴み取るからいいの」
10歳の少女にこんなことを言わせるこの街は狂ってる。
たくさんの愛情をもらって育たなきゃいけない年齢なのに。
「そっか。俺は椎堂 月。お前はって聞きたいとこだけどあとでね」
「なんで?」
「この街では、本当の名前を教えることが大きな意味を持つんだよ」
じゃあなんで、月は名前を教えたの、と聞いた少女に、俺は有名人だから、と月は答えた。
真っ暗闇の中にいた少女が出会った月。
投げやりになって訪れたこの街でのこの出会いは、果たして幸か不幸か……