極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 休日ということもあって、目当てのカフェは入り口から既に長い列ができていた。

 辛うじて空いていた駐車スペースに車を停めて様子を見たものの、すぐに入れる気配はない。

「すごい人ですね……」
「ああ。流石に待てねぇな。他も探してみるか」

 そう言って近くにある店をいくつか回ってみたものの考えることは皆同じらしいく、どこの店の前にも待ち客の列が出来ていたので結局ドライブスルーで飲み物だけを買い、そのまま当てもなく車を走らせることにした。

 二人きりだからこそ昨夜のことを余計に意識してしまうのだろう、車内では音楽が流れるだけで沈黙が続く。

 羽衣子は窓の外を眺めながらストローに口をつけ、昴もまた運転に集中しているように見えたがどこかぎこちない。

 そんな中、先に口を開いたのは昴だった。

「そういえば」
「はい?」
「どこか一泊したい場所とか、希望はあるか?」

 ふいに投げかけられた言葉に羽衣子の肩がぴくりと揺れる。

“一泊”というその響きに思わず胸が高鳴った。

「えっと……特には……」

 少し考えてからそう答える羽衣子は希望が思いつかなかったわけではない。

 ただ、それを口にするのが照れくさかったのだ。

 すると昴は苦笑混じりに言った。

「遠慮なんてしなくていい」
「え……?」
「俺の前では遠慮をしないで、もっと我が儘を言ってほしいんだ」

 その言葉は優しくて真っ直ぐで、羽衣子は思わず膝の上で手を握りしめると迷った末に小さな声で答えた。

「遠慮じゃなくて……」
「何だ?」
「その……昴さんと一緒なら、どこでもいいんです」

 その言葉に昴の視線が一瞬だけ助手席へ向くと、羽衣子は恥ずかしさで顔を赤くしながら続けた。

「昴さんと一緒に居るだけで……特別になるから……」

 言い終えた途端、自分で言った言葉に耐えきれなくなり俯いてしまう。

 車内には再び静寂が落ちたけれど先ほどまでの気まずさとは違っていて、昴は前を向いたまま、ふっと笑みを零す。

 隣にいる羽衣子が愛おしくてたまらなくて、運転中でなければ今すぐ抱きしめてしまいたいと思う程に。

「……ったく、そんなことを言われたら、どこへ連れて行こうか余計に悩むな」

 その声には隠しきれない喜びが滲んでいて、羽衣子はつられるように小さく笑っていた。
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