極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 昼食をご馳走になることになった羽衣子は昴や希海と部屋を出ると、居間へは向かわず昴に一言断ってから一人キッチンへ向かった。

 そこではエプロンを身につけた登紀子が手際よく調理を始めていた。

「あの……何か、お手伝いできることはありませんか?」

 遠慮がちに声を掛けると、登紀子は優しく微笑んだ。

「あら、それじゃあお願いしようかしら。これを切ってもらえる?」
「はい」

 羽衣子は登紀子の隣に立つと、包丁を手に取り作業を始めていく。

 二人で並んで料理をしながら穏やかな時間が流れる中、登紀子がふと思い出したように口を開いた。

「羽衣子ちゃんは保育士さんだったのよね?」
「あ、はい」
「希海は本当に羽衣子ちゃんのことが大好きみたい。家に来るといつも貴方の話をしているのよ」
「そうなんですか?」

 思いがけない言葉に羽衣子の表情がぱっと明るくなる。

「ええ。それにね昴のことも支えてくれていて、本当に感謝しているわ」
「そんな……私の方がお世話になってばかりです」

 恐縮する羽衣子に登紀子は言葉を続けていく。

「私はね、羽衣子ちゃんの存在が昴にとっても希海にとっても大きな支えになっていると思っているの」
「登紀子さん……」

 温かな眼差しを向けられた羽衣子は思わず手を止める。

 そんな中、登紀子は少しだけ懐かしむように目を細めた。

「慶太と香恵ちゃんが亡くなった時、私も主人も残された希海のことが心配で仕方なかったの。私たちには子どもがいないから養子として引き取ることも考えていたくらい。でも昴が、『俺が育てる』と言った時は本当に驚いたわ」

 登紀子の話に羽衣子は黙って耳を傾ける。

「昴は昔から女性に興味がなくて主人や慶太を慕って組の為に一生懸命だったけれど、それでもまだ若かったから、いつか大切な人が出来るかもしれない。その時に希海が負担になるんじゃないかって主人とも随分心配したの」

 一度言葉を切ると登紀子はどこか誇らしげに微笑んだ。

「でもね、あの子は決めたら最後までやり遂げる子だった。家事なんて何も出来なかったのに私に教わりながら一つずつ覚えていって、仕事で忙しくても希海との時間だけは絶対に削らなかったわ」

 その情景が目に浮かぶようで羽衣子は胸が熱くなる。

「家を出て二人で暮らし始めた時は心配もしたけれど、『すごく良い保育士さんに出会えた』って嬉しそうに話してくれてね。それが羽衣子ちゃんだったのよ」

 登紀子は野菜を鍋に入れながら改めて羽衣子へ向き直り、

「本当にありがとう。昴と希海を気に掛けてくれて」

 笑顔で向けられた感謝の言葉に羽衣子の胸はいっぱいになる。

 自分はただ、二人の力になりたいと思っていただけだった。

 それなのに、こんなにも温かく受け入れられ、感謝されるなんて思ってもいなかった。

 込み上げるものを必死に堪えながら羽衣子は小さく頭を下げる。

「……そんな風に言っていただけて、とても嬉しいです」

 震えそうになる声を隠すのが精一杯だった。
< 162 / 162 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:27

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
過去の恋愛が原因で、「女にだらしない男」を何よりも嫌う向坂 来海(29)。 一方、御曹司で誰にでも優しく、来る者拒まず──けれど、誰にも本気になったことのない羽柴 充輝(29)。 本来なら交わるはずのなかった二人は、ある出来事をきっかけに関わるようになる。 他の女性とは違い媚びることも期待することもない来海の態度に、充輝は次第に強く惹かれていく。 「誰にも本気にならない」はずだった彼の、一途すぎる想いに触れ、恋を信じることを避けてきた来海の心は少しずつ揺らぎ始めていき――。 不器用で焦れったくて、簡単には進まない二人の恋の行方は……。 他サイト様にも掲載中
表紙を見る 表紙を閉じる
結婚を約束しながらも、ある事情によって引き裂かれてしまった二人。 それから四年後――シングルマザーとして幼い娘を育てる瀬戸 和葉の前に、かつて愛した鳴海 湊が現れる。 湊は一人で頑張る和葉を放っておけずに何かと手を差し伸べるようになり、もう二度と離したくない湊の一途な愛情に包まれながら和葉は止まっていた恋と向き合っていくも、彼女はある秘密を抱えていて……。 運命に引き裂かれた二人の甘く切ない再会ラブストーリー。
恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
夏目萌/著

総文字数/96,252

恋愛(純愛)102ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ハイスペ狙いの私にとって、恋愛経験ゼロの年下くんは“対象外”だった。 あの日、間違えて電話をかけてしまうまでは。 不器用なくせに一途で、真っ直ぐで、時々ずるい。 そんな彼に翻弄されながら、私は少しずつ本気の恋を知り、彼の深い愛に落ちていく――。 藍島 朝陽 23歳 × 木葉 亜佑美 26歳 ※あくまでもフィクションです。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。 ※表紙画像はAIにて生成しました。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop