極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 互いの胸の内を少しだけ覗いてしまったような、不思議な静寂が車内を満たしていた。

 そんな二人の間に流れる空気は先程までとは違い、互いの存在が少しだけ近く感じられる。

「……そろそろ帰りましょうか」
「はい」

 昴のその言葉と共に車がゆっくりと走り出す。

 二人を乗せた車は静かに進んで行き、後二十分程で自宅へ辿り着く頃、バックミラーへ視線を向けた昴の目が僅かに細められる。

 一定の距離を保ったまま、一台の黒い車が後方を走っていたからだ。

 始めは偶然かとも思ったが、何度か右左折してもついてくるし住宅街へ入っても離れない。

 昴は表情を変えぬまま、さりげなく進路を変えた。

 そこは明らかに遠回りになるルート。

 どんなに迂回しても後ろの車は離れず、更にはサイドミラーの端に一台の大型バイクの姿が映った。

「…………」

 昴の瞳が鋭くなり、これまで不安にさせまいと羽衣子には黙っていたものの隠しきれなくなる。

「吾妻さん」
「はい?」
「落ち着いて聞いてください」

 突然掛けられた言葉に羽衣子の背筋が自然と伸び、

「後を尾けられています」
「……え?」

 予想していなかった言葉に息を呑んだ。

「後ろの黒い車と、少し離れた位置にいるバイクです。今のところ接触してくる様子はありませんが、恐らくこちらを監視しています」

 羽衣子は恐る恐るミラーへ視線を向けると、言われた通り車とバイクの姿が見えたことで、

(本当に……いる)

 心臓が大きく跳ねていく。

 怖いけれど取り乱したら迷惑をかけてしまうかもしれないと羽衣子は必死に平静を装った。

「……そう、ですか」
「そういう訳で、少し自宅からは離れますが、心配しなくても大丈夫です、今応援を呼びますから」

 昴は短く答えるとハンドルを握ったままイヤホンを装着し、スマートフォンを操作するとどこかへ電話を掛けた。

「後を尾けられてる。現在○○通り付近を走行中。これから通りへ出るから至急応援を回してくれ」

 そして通話を終えると、車は住宅街を抜けて大通りを走り続けた。

 そんな中、ふと昴は視線を横へ向けて助手席に座る羽衣子を見る。

 一見落ち着いているようにもみえたものの、膝の上で握り締められた手が微かに震えていた。

「……吾妻さん」
「え?」

 次の瞬間、昴の左手が羽衣子の方へ伸びていくと、そっと包み込むように羽衣子の右手を握ると、前を見据えたまま静かに告げる。

「大丈夫です、必ず守りますから」

 短い言葉だけど不思議な程安心出来た羽衣子の指先から少しずつ力が抜けていく。
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