僕の秘密と、彼女の嘘
*

「……お姉ちゃんたちの気持ち、わかったかも」

駅へ向かう道すがら、七瀬がぽつりと呟いた。

「あんなかわいい妹いたら、着せ替え人形にしたくなる」

「七瀬……ありがとう」

駅で礼を言うのは、これで二度目だった。
あのときと同じように、七瀬の顔は夕日に照らされている。

「奏、すごく喜んでたよ。あんなに楽しそうに歌ったの、初めてかもしれない」

素直な気持ちだった。
自分と同じように、奏も悩んでいることを知っていたから。

七瀬は、いつもの笑顔を見せると思っていた。
だけど――今日は違った。

驚いたような、困ったような表情で、じっと僕を見る。

「七瀬……?」

呼びかけると、七瀬は両腕を広げて、ふわりと抱きついてきた。
ぎゅっとじゃない。抱きしめる、というほど強くない。
近くてやさしくて、少し切ない距離だった。

「こちらこそ、ありがとう。響と奏ちゃんの、嬉しそうな顔が見られてよかった」

そして、耳元で囁く。

「本当は……」

声は小さすぎて、駅前の喧騒に溶けて消えた。

「え? 何て言ったの?」

聞き返すと、七瀬は静かに身体を離す。
その表情に、胸がざわついた。

――泣きそうで、今にも消えてしまいそうだったから。

「何でもない。……いつか、ちゃんと言うから」

そう言って、改札の向こうへ消えていく。

七瀬は何を言おうとしたんだろう。
まったく、見当もつかない。

六月の風が、やけに冷たく感じた。
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