遅かれ、早かれ、恋になりまして。
AM 8:24
8時17分。
今日は、完璧。
そう言い聞かせるように、心の中で何度も繰り返す。いつも通りの時間に起きられたし、メイクも髪もちゃんと整えてきた。鏡の前で何度も確認して、「うん、大丈夫」と自分に言い聞かせてから家を出た。
だから今日はきっと大丈夫なはずだ。
今日は10時に、新規取引先のNEXERA株式会社の方が数名来社予定だ。かなり重要度の高い案件で、気合いの入るプレゼンになる。正直、昨日からずっと心臓が落ち着かない。
資料は何度も見直したし、想定問答も頭の中で繰り返したのに、それでも不安だけが消えない。
私は昨日おろしたばかりの少し高いヒールの靴を履きながら、自分に何度も「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせる。まだ少し慣れていないせいか、かかとがほんのり痛む。
でもその分、視界が少しだけ高くなって、いつもより世界が整って見える気がした。その小さな変化に、少しだけ背中を押されるような気がする。
歩いて5分で最寄り駅に着き、慣れた動作で改札を抜ける。
ホームに降りると、ちょうど24分発の電車が到着したところだった。いつもならそこまで緊張しないはずの通勤時間なのに、今日はやけに胸の奥がざわついている。
会社まであと15分。相手が来るのは10時。頭では間に合うと分かっているのに、気持ちだけがずっと先に行ってしまって落ち着かない。
ふーっと静かに息を吐いて、プシューッという音とともに開いた電車のドアへと足を踏み入れた瞬間、目の前の光景に思わず息が止まりかけた。
「……。」
満員電車の中、私が乗れるように、わずかにスペースを空けてくれた、その人。
昨日の、彼。