遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「もう会わないんだよ?」
「なんで?電車の時間ずらせばよくない?」
「いや、そこまでじゃ…」
「えー、もったいない。そんな綺麗な顔なら、見ただけで元気でるけどな」
「………。」
まあ、今朝の私も正直ちょっと思ってたんですけど。朝のバタバタの中で、必死に走って、息切らして飛び乗った電車の中に、あんな綺麗な人がいたら、そりゃ一瞬くらい目を奪われても仕方ないじゃない。
でもだからって、電車の時間をずらすなんてそんなストーカーみたいなことできるわけがないし、そもそも会える保証もないし、そんな偶然を狙いにいくのは違う気がする。
「別によくない?声かけるわけじゃないんだし」
「……うーん。奇跡的に会えたらいいなとだけ思っておくね」
「え~!」
佳奈子はわざとらしく肩を落として、残念そうな顔をした。
だって、ストーカーまがいなことはしたくないし。もう会うことはないって思ってたし……というか、なにより今日汗かきまくりで前髪も額に張り付いてて駆け込み乗車したところを見られてたわけだし。
思い出した瞬間、普通に恥ずかしさがぶり返してくる。あの人の横顔と、全力で息切らしてた自分の対比、あれは普通に公開処刑に近い。
「好きになったら、教えてね?」
「~~~絶対ならないから!」
即座に否定するけど、佳奈子はにやにやしたままフォークをくるくる回している。
でもその一方で、頭のどこかではまだ、今朝の電車の窓際に立っていたあの人の姿が、消えずに残っていた。