遅かれ、早かれ、恋になりまして。
不意に見せる有馬さんの柔らかい表情も、落ち着いた声も、きっとこれで最後だって、どこかで分かっている自分がいて、その事実だけがじわじわと胸の奥を締めつける。
やがてタクシーが2台同時に来て、私たちは別々の車に乗り込むしかなくなる。
「今日は、ありがとうございました」
「はい、また。おやすみ」
その“また”が本当にあるのか分からないまま、ドアが閉まった。
タクシーに乗り込んで、震える指でAirPodsをつける。
流れてきた曲は、さっき有馬さんがおすすめだと言っていたものだった。
その瞬間、胸の奥がきゅっと掴まれる。
有馬さんの言うとおりだ、って思ってしまう自分が悔しくて、もう遅いのに認めるしかなくて、いつもなんとなく聞き流していたはずの音楽が、まるで別の意味を持ってしまっている。
車の揺れに合わせて流れる音の中で、頭の中に有馬さんの顔が何度も何度もチラつく。
知りたくなかった、気づきたくなかった。こんなふうに残るなら、最初から何も知らないままでよかったのに。
でももう全部遅くて、取り消せないところまで来てしまっている。
これからきっと、この曲を聴くたびに思い出すんだろう。
有馬さんの手の温度、指先の感触、どうしようもなく揺れた気持ち、夜の冷たい風、キラキラして見えた一瞬の世界、その全部が一緒に戻ってくるんだろう。
気づかれないように、涙が落ちるのをただやり過ごして、私は窓の外に視線を逃がした。
流れていく街の光だけが、やけに遠くて、やけに優しかった。