遅かれ、早かれ、恋になりまして。

バーを出たときには、すでに23時を回っていて、来た時よりも夜風が冷たく感じた。


「タクシー呼びますね」


有馬さんがそう言ってスマホを取り出し、すぐに電話をかけ始める。

まだ帰りたくない。ここに来る前は素直にそう言えたのに。今はもう喉の奥に言葉が引っかかって出てこない。
言ったら全部崩れてしまいそうで、ここまでの空気が壊れてしまいそうで、怖かった。


気づいたら、私は有馬さんの左手にそっと指先を触れていた。

有馬さんが電話の途中で少しだけ動きを止めて、ゆっくりと私の方に目を向ける。その視線に触れた瞬間、心臓が跳ねて、ああ見られてる、ちゃんとバレてる、って思ったのに、それでも手を引けなかった。

次の瞬間、私の手は有馬さんの手に包まれていた。
細いのに大きくて、温度がちゃんとある掌が、私の手を繋ぎ止めてくる。その温かさが嬉しいのか苦しいのか分からなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

ごめんなさい、有馬さん。これが最初で最後だから、ほんの少しだけ許してほしい。

電話を終えた有馬さんが、スマホをポケットにしまう前に少しだけ私の顔を覗き込んでくる。


「タクシー来るまでこのままだけど、いいの?」


有馬さんの声が、さっきより少しだけ低く聞こえて、距離が近いことを意識させる。


「問題ないです」


私はそう答えるのが精一杯で、ほんとは問題しかないのに、そう言うしかなかった。
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