遅かれ、早かれ、恋になりまして。

こんな至近距離で見つめられるなんて聞いてない。車の中。密室。逃げられない。心臓の音がうるさすぎて、頭がおかしくなりそうだった。


「……う、ぁ……」


ほんとに?呼ばなきゃダメ?
有馬さんの綺麗な顔が、すぐそこにある。じっと見つめられて、耐えきれなくなった私は、半分やけくそみたいに声を出した。


「ち……千春さん…!」


呼んだ瞬間だった。有馬さんの瞳が、わずかに揺れて、アーモンド形の瞳に映る私が大きくなる。


「んっ……」


唇が重なる。思考が真っ白になった。

さっきまで手首を掴んでいた有馬さんの手が、今度は私の頬を包み込む。密室の車内に響くのは、触れ合う音と、絡まる吐息だけ。近い。熱い。苦しいくらい甘い。

ここ会社なんですけど――!

そう言いたいのに、キスで塞がれて声にならない。有馬さんが触れるたび、頭の奥がじんじん痺れて、まともに考えられなくなる。


どれくらいそうしていたんだろう。やっと唇が離れて、ぼんやり目を開ける。

すると、有馬さんの唇と舌の間に細く糸が引いているのが見えて、羞恥で頭が真っ白になった。


「……っ」


恥ずかしい。なのに、目を逸らせない。荒くなった呼吸のまま、有馬さんが額を寄せてくる。


「どうしよう、止めて、弥生」


掠れた声。熱を帯びた瞳。そこには、仕事中の冷静な有馬さんなんてどこにもいなかった。

今、この人の瞳には私しか映ってない。私だけに向けられる顔。私だけに見せる欲しそうな表情。

その事実に胸がいっぱいになってしまって――止めるなんて、できるわけなかった。
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