遅かれ、早かれ、恋になりまして。
私はすぐに視線をスライドに戻し、「そのため今回の設計ではこの層を中心に据えています」と続けた。
課長が小さく頷きながら補足を入れる。
会議室の空気がようやく「通常運転」に戻り始める。
資料のページをめくる音、キーボードを叩く小さな音、その全部がさっきまでよりも現実的に感じられた。なのに、私の中だけはまだ少しだけ遅れているみたいだった。
次のスライドを開きながら、意識的に呼吸を整える。
大丈夫、答えられた。問題ない。
そう頭の中で繰り返すのに、さっきの一瞬だけが妙に残っている。
「続きまして、実際のクリエイティブ案についてご説明いたします」
画面を切り替えると、広告バナーのラフやコピー案が表示される。視線をそこに固定しようとするのに、どうしても視界の端が気になる。
正面の少し斜め、有馬さんの位置。有馬さんはメモを取っているようでいて、時々こちらを見ている気配がある。それが確信なのか錯覚なのか分からないまま、私は説明を続ける。
「メインコピーとしては、導入のしやすさと現場定着の速さを軸に設計しています」
そこで一度だけ区切り、次のスライドへ移る。その瞬間だった。
「すみません、もう一点だけ」
また彼の声が落ちる。今度はさっきより少しだけ早い。会議室の空気が、わずかに引き戻される感覚。
「そのコピー設計ですが、導入のしやすさを強く打ち出す場合、逆に機能のシンプルさと誤認されるリスクはどう考えていますか」
一瞬、息が止まりかける。鋭い。というより、見落としそうな部分を正確に拾われた感覚だった。
私は資料に置いた指先を軽く押さえながら、言葉を探す。