遅かれ、早かれ、恋になりまして。

説明を続けながら、自分でも分かるくらい、視線だけがほんの少し慎重になっているのを感じていた。会議は進んでいる。仕事としては問題ない。

なのに、静かな会議室の中で、彼の視線だけがなぜか一番はっきりと残ってしまう。


説明を一通り終えかけたところで、私は一度だけスライドを切り替えた。

画面に表示されたのは、今回のプロモーション全体のターゲット設計図。そこまで説明したところで、少しだけ間を置く。呼吸を整えるためでもあり、次の言葉を選ぶためでもある。静かな会議室の中で、誰かが資料をめくる音だけが小さく響いていた。

その中で、不意に声が落ちる。


「一点だけ確認させていただいてもよろしいですか」


有馬さんだった。
視線は資料に向いたままなのに、その声だけがやけにはっきりと耳に届く。私は一瞬だけ動きを止める。


「はい」


できるだけ平静を装って返す。彼はゆっくりと顔を上げて、画面ではなくこちらを見る。その視線がまっすぐすぎて、理由もなく呼吸が浅くなる。


「今回のターゲット設定ですが」


少しだけ間を置いて続ける。


「中小企業の意思決定層ということですが、その根拠データはどのあたりをベースにしていますか」


淡々とした質問。感情はない。ただの確認のはずなのに、その一言で会議室の空気が少しだけ引き締まった気がした。私は一度だけ瞬きをしてから、手元の資料に視線を落とす。


「こちらは、直近三年間の導入企業データと、業界別のIT投資比率を基に設定しています」


言葉は出る。ちゃんと準備してきた通りに。けれど説明しながらも、なぜかさっきより彼の視線が気になってしまう。顔を上げるタイミングを一瞬だけ迷って、それでも続ける。


「特に従業員規模50〜300名の層で、導入後の定着率が高い傾向が見られたため…」


そこまで言ったところで、ほんの一瞬だけ彼と目が合った。
ほんの一瞬なのに、心臓が余計な音を立てる。
< 28 / 175 >

この作品をシェア

pagetop