【大河ドラマ】忙しい人のための新・安倍晴明物語

第12話 海若祭

 天暦元年(947)夏、賀茂保憲が疱瘡に罹患した。晴明は疫病を鎮めるため、文武兼に海若祭を提案する。難波浦は龍神の棲家であり、龍神の加護を受けている保憲の危機を知らせれば助けてくれるはずだと。武兼は承諾した。保憲の弟子にすぎない晴明が長期間不在にしていても、誰も困らない。

 海若祭は摂津国難波浦で行う。璇璣は同行を願うが、結界に阻まれて都の外に出ることができない。そこで、晴明と玉屑の二人で現地へ赴くことになった。平安京から難波浦までは半日かかる。身分の低い賀茂家に車や馬はなく、徒歩で行くことを余儀なくされた。二人とも長距離移動は初めてのため、予想以上に時間を費やした。

 二人が難波浦付近に到着した頃には日が暮れていた。長旅で疲れた玉屑は先に宿を探そうとする。だが、一刻も早く保憲を救いたい晴明は反対し、足早に難波浦へ向かった。

 晴明に従い難波浦まで同行した玉屑だが、たかが陰陽道の祭祀に人命を救う力があるとは思えない。彼女には、晴明がわざわざ遠国まで足を運び疫病消除の祈祷をする意図が分かりかねた。

 都から陰陽師が来たという噂は辺りに広まり、野次馬が海岸に押し寄せてきた。晴明は気に留めることなく祭文を唱えた。すると、海の向こうから巨大な龍が姿を現した。

 村人たちは初めて龍を目にしたようで、龍神が現れたと大騒ぎになる。玉屑も思わず目を見張る。晴明は龍の前に跪き、大声で「平安京を疫病の災いから救ってほしい」と嘆願する。すると、龍と晴明を取り囲むように霧が立ち込めた。玉屑をはじめ、周囲の者には霧の中の様子が見えない。

 龍の正体は蜃蛤という名の蛤妖である。真体は蛤だが、幻術で龍の形に見せているのだ。蜃蛤は晴明を見るなりすぐに妖神だと気づき、感慨に浸る。前世で炳霊帝君率いる泰山神兵の攻撃を受けて魂が雲散した妖神に再会するまで、何百年も待ち続けていたと。同時に、蜃蛤には晴明の目的が分かりかねた。病気消除など、妖神にあるまじき願いである。

 晴明は自分が妖神であることを肯定も否定もせず、簡潔に用件を述べる。「疫病の件は解決済みのため、幻術で玉屑をもてなしてほしい」。玉屑は長旅で疲れているが、高貴な神仙であり普段から世話になっている彼女を粗末な宿に泊めるわけにはいかないと。蜃蛤には、かつての妖神らしからぬ言動ばかりの晴明に戸惑う。宿敵に等しい炳霊の妹と恋に落ちたのかと思い込んだのだ。だが、妖神の頼みを断るわけにもいかない彼は、蜃気楼を生み出し玉屑の宿にすると約束する。

 晴明は玉屑に事の経緯を説明し、彼女の手を引いて岸辺の小舟に乗せる。二人が乗った小舟は蜃蛤が法術で生み出した泡に包まれ、海底へ沈んでいく。玉屑は初めて見る術に驚き感心するばかりである。

 海中は蜃蛤の幻に包まれており、通常では見られないような色鮮やかな魚たちが泳いでいた。幽玄な光景を見た玉屑は心を躍らせる。二人は蜃蛤の配下の侍女に歓待を受けて、さらに深く沈んでいく。


 一方、賀茂邸では賀茂忠行が保憲の病状を案じている。璇璣は忠行から妖術で保憲を疱瘡から救ってほしいと頼まれる。しかし、妖族に治癒する術はない。妖族は疫病の影響を受けないため、璇璣は自ら保憲の看病を買って出る。すでに月が高く登り、忠行は璇璣に後を任せて就寝した。

 皆が寝静まってもなお、璇璣は保憲を静かに見守っていた。璇璣はこの機に乗じ、保憲を殺害しを試みる。彼は晴明の前途を阻む存在だからだ。ちょうどその時、藤原伊尹が訪ねてきた。伊尹の目的が玉屑だと聞いた璇璣は彼女の不在を告げる。しかし、伊尹は璇璣でも構わないと言い、その場に留まる。璇璣は伊尹の好色ぶりを非難する。伊尹は璇璣の傍らにある鳥かごに目を留め、烏を飼っていることを珍しがる。璇璣は伊尹が烏を気味悪がって帰ることを期待したが、彼は好奇心に駆られて彼女にあれこれと質問する。結局、璇璣は保憲殺害の好機を逃してしまうのである。

 晴明と玉屑が目を開けると、貝殻の形をした寝台があった。二人が乗っていた小舟は見当たらない。寝台は一つだけで、二人で共有するほかない。思わず息を呑む玉屑とは対照的に、晴明は冷静である。出入口はなく、今夜はこの空間で過ごすしかない。晴明は玉屑を抱き寄せ、普段の彼からは想像もできないような甘い言葉を囁く。玉屑は彼の態度に心をときめかせ、二人はついに情を交わした。

 夜が明けて、玉屑は難波浦の岸辺で目を覚ました。全身砂まみれであった。その傍らで、一足先に起きた晴明が彼女を見守っていた。彼は、まるで昨日の情事などなかったかのように落ち着いている。また、二人とも一糸まとわぬ姿で連理木のように繋がったまま寝ていたにもかかわらず、目覚めたときには服を着ていた。玉屑は「昨夜の出来事は夢だったのだろうか」と落胆する。

 玉屑が砂を洗い流している間、晴明の前に蜃蛤が現れた。蜃蛤は晴明が玉屑の籠絡に成功したと喜んでいる。二人が抱き合った宿は蜃蛤が生み出した幻であり、彼は情事の一部始終を見ていた。晴明は情事を盗み見されていたことに不快感を覚えながらも、蜃蛤の指摘を否定しない。

 海若祭を済ませた以上、玉屑は晴明が帰京するものと思っていたが、彼には立ち寄りたい場所があるという。晴明の両親が出会った信太森である。
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