【大河ドラマ】忙しい人のための新・安倍晴明物語

第11話 大嘗会御禊

 天慶九年(946)夏、藤原師輔の九条殿で失火が発生した。幸いにも、晴明が降らせた雨のおかげですでに鎮火がなされていた。火災で重傷を負い、死の淵をさまよっている若い女房がいる。師輔の愛人の一人である。玉屑は師輔から女房の助命を乞われるが、彼女は相変わらず衆生の天命に干渉しようとしない。とはいえ、苦しむ女房を放置するのも良心が痛むので、せめて穏やかに逝けるよう法術を施そうとした。ちょうどその時、女房が息を吹き返した。

 女房は悪夢にうなされていたようで、精神が錯乱している。晴明は女房が幼少期の自分と同様に臨死体験をしたのだと推し量り、自分が彼女をなだめると言って人払いをした。

 晴明の推測どおり、女房は夢の中で冥界を放浪していた。そればかりか、彼女は獄卒に誤って地獄まで案内された。地獄で罪人が刑罰を受ける凄惨な光景が頭から離れず、取り乱してしまったという。晴明は思うところがあり、懐から香り袋を取り出す。その中には、彼が法成橋で回収した塵が入っている。晴明は袋を女房に見せ、塵に触れさせる。彼女いわく、地獄の塵と同質のものだという。これは、晴明の予想どおりであった。女房の反応に納得した彼は退出し、駆けつけてきた丹波康頼に後を任せた。

 雨が降りしきるなか、晴明と玉屑は帰路に着いた。晴明の提案で、二人は鴨川沿いに帰った。市街地には死体が散乱し、穢れが蔓延しているからだ。まともな葬儀を行えるのは、一部の上級貴族だけなのである。晴明は、この穢れが疫病の原因となり得ると考えていた。そして、卑しい身分とはいえ人命を軽視して死体を野ざらしにする輩には、いずれ天罰が下されるだろうと。それゆえ、晴明は賀茂邸に来て間もない頃、身分の上下にかかわらず屋敷の者は死後に土葬を行おうと保憲に提案した。保憲も晴明の意見に同意し、それ以降賀茂家の決まりになったのだ。玉屑は晴明の命を大事にする心がけに感心した。

 世間では、村上天皇の即位に伴い大嘗会の準備で忙しい。もっとも、当日に儀式を見られるのは上級貴族だけで、賀茂家のような中流階級にその権利はない。かろうじて天皇が鴨川で御禊に臨む様子を見物するくらいである。天皇の御禊を担当するのは陰陽頭の文武兼である。

 大嘗会にさしあたり、晴明は璇璣から村上天皇暗殺を勧められる。大嘗会御禊は天皇が外出する数少ない機会である。世を乱す絶好の機会だと。だが、晴明にそのような考えは毛頭ない。彼はただ天皇が無事に御禊を終え、世の穢れが払い清められることを願っていた。

 大嘗会御禊当日の平安京は、身分の上下を問わず京中から人が押し寄せた。晴明は玉屑とはぐれないように彼女の手を引き、保憲と共に鴨川へ赴いた。すごい人だかりで、近くで御禊の様子を見物することはできなかった。保憲は、いつか陰陽頭に就任したときの自分の姿を想像し、心を躍らせた。

 御禊が終わると、晴明は皆に用を足してくると告げ、単身で宮中に忍び込んだ。大嘗会では、安倍氏の当主が吉志舞を披露する。庶子である晴明のその資格はない。彼はただ、遠くから舞の音楽に耳を澄ますことしかできない。

 後ろから玉屑が晴明に声を掛け「吉志舞の旋律は複雑で、一度では覚えがたい」と冗談を言った。玉屑の気配に気づかなかった晴明は驚いたものの「旋律を覚える気はなく、安倍氏一族の晴れ姿を見物したかっただけ」と冷静に答える。安倍氏を乗っ取ろうとするような邪念は決して抱いていないと。しかし、玉屑は平安京が疫病や強盗、妖魔などのせいで常に死のにおいに溢れていることを指摘し、晴明があの輝かしい舞台に立つ可能性も否定はできないと告げる。幽玄な舞で雨乞いをする晴明は、一族の誰よりもあの舞台に立つにふさわしいだろうと。いつもは冗談ばかり言う玉屑だが、この時ばかりは真剣な眼差しだった。晴明は思わず心が揺れた。そのようにして、二人は静かに舞を最後まで聴いた。

 天暦元年(947)夏、平安京では疱瘡が流行り始めた。疫病の災いに見舞われたのは、主に三十代以下の男女であった。朝廷は僧侶に大般若経を転読させ、仁王経を演説させた。陰陽寮は朝廷の命を受け、建礼門の前で鬼気祭を修した。だが、その甲斐もなく、数日後には村上天皇と朱雀上皇が疱瘡に罹患してしまう。陰陽寮は四角祭を修して病気消除を祈願するが、効験はみられない。

 晴明は、賀茂保憲を疫病に罹患させないために休ませようとする。しかし、保憲は「皆が出勤しているのに、自分だけ難を逃れるわけにはいかない」と言って、晴明の忠告に耳を貸さない。やがて陰陽寮でも疫病に倒れる者が続出し、とうとう保憲も疫病を患ってしまう。

 玉屑は自分の部屋に保憲を隔離した。神仙は疫病の影響など受けないからである。忠行は玉屑に保憲の助命を嘆願するが、このような状況でも彼女は衆生の天命に干渉しないという姿勢を崩さない。璇璣は晴明が妖神の力を解き放ち疫病を招いたのだと喜ぶ。もちろん、晴明にそのような意図はない。晴明は陰陽寮へ赴き、文武兼に「保憲の疫病を治すために、摂津国難波浦で海若祭を修させてほしい」と願い出る。
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