【色彩奉納記】
第一章第三幕【深蘇芳牡丹】
いつの日だったか、蝉の声がよく響く深蘇芳家の縁側。
三人で笑っていたはずの苦い思い出。
「あら、ありがとうございます!お姉様またお団子もらっちゃったわ~」
「ふふ本当に百合はモテるね」
爽やかで頭のいい芍夜お姉様。
妹のわたしから見ても可愛くて愛嬌がある百合お姉様。
昔から芍夜お姉様はなんでも出来て、人助けに尽力する優しい人だった。
百合お姉様もいつも人に囲まれていて高嶺の花で。
二人がとても羨ましかった。
大して可愛くもなく、愛嬌もなく、頭もよくないわたし。
せめて何か出来るようになりたくて、色神の稽古は頑張った。
でもそれもお姉様達には勝てなくて。
わたしの心には大きな劣等感という渦が生まれていった。
「牡丹?顔色がよくないよ。大丈夫?」
「そうよ。体調が悪いときはいつでも言ってちょうだい」
「貴方のお姉ちゃんなんだから」
「…うん。ありがとう。大丈夫、だよ」
お姉様達は決してわたしを無下にはしなかった。
むしろ沢山可愛がってもらった。
大好きで大嫌いなお姉様達。
どうしたら芍夜お姉様みたいに頭がよくなれたのかな?
どうしたら百合お姉様みたいに可愛くなれたのかな?
わたしにも何か才能があったらな。
***
わたしが10歳の頃深蘇芳家は大きく変わる。
芍夜お姉様が意識不明の重体になってしまったのだ。
それは山の見回りをしていた時、土砂崩れに遭った民を庇ってのことだった。
百合お姉様はわたしが9歳の時点で、隣の橙の国に嫁いでしまい不在。
深蘇芳家では会議が開かれた。
当主問題に色神候補がいなくなってしまったこと。
芍夜お姉様に婚約者はおらず継がせることも出来ない状態。
その結論に至ったとき、沢山の大人がこちらを振り返ったのを覚えてる。
「…赤の国色神は深蘇芳牡丹とする。意義はないな?」
「…承知致しました」
お父様がわたしを指名したときのあの空気。
「こんな幼い子に務まるのか」、「芍夜様がいてくださったら」と言われたことを覚えている。
わたしは着物を強く握った。
拒否権などないから。
梅雨特有の湿った空気が広い和室を包み込む。
やけに肌に張り付く気がして気持ち悪かった。
「一重梅家の連絡はお任せください」
一人の使用人がそう名乗り出したところから、大人達はいそいそと部屋を出ていきそれぞれの持ち場に戻る。
残されたのは病弱なお父様とわたしだけ。
「…お前には期待している。母さんの分まで頑張ってくれ」
「不甲斐ない父親ですまないな」
「…お父様…わたし」
目の前がぼやけ、頬には雫が伝った。
お父様はそれを拭ってくれた。
これが唯一お父様とまともに会話した記憶だった。
三人で笑っていたはずの苦い思い出。
「あら、ありがとうございます!お姉様またお団子もらっちゃったわ~」
「ふふ本当に百合はモテるね」
爽やかで頭のいい芍夜お姉様。
妹のわたしから見ても可愛くて愛嬌がある百合お姉様。
昔から芍夜お姉様はなんでも出来て、人助けに尽力する優しい人だった。
百合お姉様もいつも人に囲まれていて高嶺の花で。
二人がとても羨ましかった。
大して可愛くもなく、愛嬌もなく、頭もよくないわたし。
せめて何か出来るようになりたくて、色神の稽古は頑張った。
でもそれもお姉様達には勝てなくて。
わたしの心には大きな劣等感という渦が生まれていった。
「牡丹?顔色がよくないよ。大丈夫?」
「そうよ。体調が悪いときはいつでも言ってちょうだい」
「貴方のお姉ちゃんなんだから」
「…うん。ありがとう。大丈夫、だよ」
お姉様達は決してわたしを無下にはしなかった。
むしろ沢山可愛がってもらった。
大好きで大嫌いなお姉様達。
どうしたら芍夜お姉様みたいに頭がよくなれたのかな?
どうしたら百合お姉様みたいに可愛くなれたのかな?
わたしにも何か才能があったらな。
***
わたしが10歳の頃深蘇芳家は大きく変わる。
芍夜お姉様が意識不明の重体になってしまったのだ。
それは山の見回りをしていた時、土砂崩れに遭った民を庇ってのことだった。
百合お姉様はわたしが9歳の時点で、隣の橙の国に嫁いでしまい不在。
深蘇芳家では会議が開かれた。
当主問題に色神候補がいなくなってしまったこと。
芍夜お姉様に婚約者はおらず継がせることも出来ない状態。
その結論に至ったとき、沢山の大人がこちらを振り返ったのを覚えてる。
「…赤の国色神は深蘇芳牡丹とする。意義はないな?」
「…承知致しました」
お父様がわたしを指名したときのあの空気。
「こんな幼い子に務まるのか」、「芍夜様がいてくださったら」と言われたことを覚えている。
わたしは着物を強く握った。
拒否権などないから。
梅雨特有の湿った空気が広い和室を包み込む。
やけに肌に張り付く気がして気持ち悪かった。
「一重梅家の連絡はお任せください」
一人の使用人がそう名乗り出したところから、大人達はいそいそと部屋を出ていきそれぞれの持ち場に戻る。
残されたのは病弱なお父様とわたしだけ。
「…お前には期待している。母さんの分まで頑張ってくれ」
「不甲斐ない父親ですまないな」
「…お父様…わたし」
目の前がぼやけ、頬には雫が伝った。
お父様はそれを拭ってくれた。
これが唯一お父様とまともに会話した記憶だった。