【色彩奉納記】

第一章第五幕【一重梅凛紅】

僕は秋が好きだった。
葉が一つ一つ鮮やかに輝く紅葉が。
それは赤の色神様のおかげだと母様に教えられた。
色神様が舞うと国に彩りが溢れると。
幼い頃、一度だけ祭壇に連れて行ってもらったことがある。
人だかりの中心に彩具を構える美しい女性がいたのを覚えてる。
女性が腕を広げれば、星のような光の粒が溢れた。
それは僕の手にも降り注いだ。
 
「色神様の祝福だねぇ。良かったね凛紅」
「将来はきっと大成するぞ!」

声が大きくていつも明るい父様。
優しく見守ってくれてた母様。
二人のもとに生まれて僕は幸せだった。
 
───しかし幸せとは儚いもの。
 
僕が9歳の頃全ては変わってしまった。
父様が浮気をしていたのだ。
それが母様にバレて、喧嘩が絶えない家になった。
それを見かねた親戚の叔母さんに引き取ってもらった。
絶望していた僕を救ってくれた叔母さん。
叔母さんはいつも僕の話を最後まで聞いてくれた。
「凛紅くんは正直な子だねぇ」と笑いながら。
生まれて初めて、大人を信じてもいいかもしれないと思った。

───しかしその幸せも、長くは続かなかった。

「凛紅くんは…きっと、いい人になるから…長生きしな、さい、ね…」

血まみれの叔母さんを抱きかかえながら事故現場で啞然としていた僕。
どのくらいそうしていたのかも分からない。
ふと大きな影が自分の影と重なる。
気づいたら一重梅家の人間が後ろに立っていた。
きっと同情だろう。それでも行く場所などなかった。
そうして僕は一重梅家に引き取られた。
それからは辛い鍛錬の日々だった。
一重梅家は赤の色神に仕える一族。
自分の命を捨ててでも守れと叩き込まれた。
僕は感情という感情を捨てた。
こんなものはない方がいい。
これがあるから僕は辛くて苦しくて仕方ないんだ。

***

どれくらいたったのだろうか。
日々を覚えるのも億劫で、ただ「生きている」というだけの僕。
そんな僕に一通の手紙が来た。
深蘇芳家からだった。
それは新しい色神様の色神官になってくれないかというものだった。
深蘇芳家の屋敷に着いたのは、紅葉が盛りの頃だった。
案内された部屋には、一人の少女が座っていた。
深蘇芳家特有の唐紅(からくれない)の瞳に(そほ)色の髪に朱色の袴。
鮮やかな紅葉に引けを取らない美しさなのになぜだか、ひどく小さく見えた。
下を向いて、肩が微かに震えている。
怖いのか、それとも緊張しているのか。
少女はしばらく顔を上げなかった。
───それでも僕の目には、彩りのない世界に差し込んだ一筋の光に映った。
それが『深蘇芳牡丹』様との出会いだった。
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