唯一無二の私たちだから

朱莉のお迎え

あれから3日経って、ドラマも完成に向かっていった。
放送はまだ再来週だから、まだまだそれまでみんなで頑張るんだ。
今日も練習が終わって朱莉を探す。
やっと見つけて、私は朱莉に駆け寄った。

「朱莉、帰ろ」

すると朱莉は申し訳なさそうに言った。

「ごめん夢叶。今日もちょっと監督に指導してもらいたくて。30分くらい残って帰るから、先に帰ってていいよ」

「おっけー!わかった!」

私は朱莉に手を振って練習場を後にした。
しばらく歩いて玄関まで行くと、後ろから右京さんに呼ばれた。
私はピタッと動きを止める。

「夢叶ちゃん、最近はまた朱莉くんと仲良さそうだね。仲直りできたのかな?」

そう言ってにこっと笑った右京さん。
右京さんが来てから、ずっと絡んできて少し嫌だった。
いつも私にとって嫌なことばっかり言うから。
でも、今日は負けない。

「あ、そうだ朱莉がね——」

「右京さん、何度も同じ手に傷つくと思わないでください」

「…え?」

「朱莉とはしっかり話し合いました。朱莉は私を、たったひとりの家族だと言ってくれました。あなたなんかに、その座は渡しません」

そう言って右京さんを睨んだ。
いつもなにも言わないから、驚いているのだろう。
でも、いつものようにニコッと笑って近づいてきた。
今度はなにを言われるのだろうと身構えたけれど——。

「あの、すみません。ここに夜野朱莉はいますか?」

突然かけられた女の人の声によって、ふたりとも固まった。
私はその人の方を向いた。
長い黒い髪はふわっとしていて、青空色の瞳をしていた。
とてもきれいな人。
なんだか朱莉に似ている気がする。
そう考えていると、右京さんが口を開いた。

「お久しぶりです心美(ここみ)さん。えっと…朱莉くん……は、多分もう帰ったと思います」

心美さんという人に、右京さんはニコッと笑った。
私は「え?」と言ってしまいそうなのを、おさえた。
右京さんに「黙ってて」という視線を向けられたから。
朱莉はまだ監督と話してるはず。
だから、帰ってるっていうのは嘘。
そんなの右京さんだって知ってる。
なのにそんな嘘をつくってことは、この人には知られたくないってことなんだろう。

——どうして?

「そう。なら、今日は諦めるわね。とりあえず監督さんに会ってくるわ。どこにいるかわかる?」

「いえ、それはわかりませんね」

「そう。ありがとう」

心美さんはニコッと笑った。
その表情は、まるで嘘を見透かしているようだった。
この人が怖いと思ってしまった。
それから私と右京さんの間を通り、心美さんはどこかに行ってしまった。
その後すぐに右京さんに腕を引っ張られた。

「な、なんですか!?」

「急がないと!!心美さんは、朱莉くんを連れ戻しにきたんだよ!心美さんよりも先に、朱莉くんを見つけないと…!!」

右京さんはすごくあせった表情をしていた。
朱莉を連れ戻しにきたって、どういうこと?
なにが起こってるの?
なにもわからないけれど、右京さんに従った方が良さそう。
走り出した右京さん後を、私も追いかけていった。

すぐ近くの階段を上がって練習場まで行った。
ドアを勢いよく開けたところには、案の定朱莉と監督がいた。
右京さんは、朱莉に近寄って言った。

「朱莉くん、今すぐに帰って!」

「え?いきなり、どういうこと?」

右京さんは急ぎすぎるあまり、重要なことを言えてない。
朱莉が私をチラッと見た。

「私もよくわかんないんだけど、心美さんって人が朱莉を探してるみたい」

“心美さん”という言葉に反応して、朱莉だけじゃなく監督も動きを止めた。

「わかった。見つからないように帰るよ。由衣、対応ありがと」

そう言って荷物をまとめた朱莉だけど、私は気がついていた。
あの人、絶対朱莉がここにいるってわかってた。
なんとなく、そういう演技をしていた気がするんだ。
私だって俳優だし、そういうのがわかる。

「待って朱莉、たぶん帰るよりも隠れた方がいいよ。だってあの人、どうしてかは分からないけど、朱莉がここにいるってわかって——」

「あら、そんなこと気がつかなくてよかったのに」

私の言葉に返事をするようにしていったのは、ドアの前に立っている心美さんだった。
気がつかなかった。
もう来ていたなんて。
いやそれよりも、本当に嘘だってバレてたんだ。

「母さん…」

朱莉がそんな声をもらした。
その一言で、全てがわかった。
この人は朱莉が言っていた、朱莉を捨てた人…つまり母親だ。
だからこんなにも似ているんだ。

「朱莉、探したわよ。さあ、帰りましょう。あなたにはたくさんひどいことをしてしまった。それを全てお()びするわ。だから、帰りましょう」

「っ…!」

そんなこと言われたら、期待してしまうだろう。
また自分を見てくれるんじゃないかって。

「朱莉くん、ダメだからね」

右京さんもわかってる。
きっとついていっても、昔のように自分のことは見てくれないって。
だけど——。
私は知ってる。
“もしも”を考えちゃうものなんだよ。

「母さんと、昔みたいに戻れる?」

朱莉の目からは涙が出ていた。
私たちが捨てられたのは、8月27日の夏の夜だった。
その日だけはふたりで仕事を休んで遊んでさ。
夜はベッドに一緒に横になって、朱莉からは両親が仲良かった頃の話をされるんだ。
いつも、泣いてたんだよ。

『戻りたいんだ、あの頃に。でも、捨てられたんだから無理だよなぁ』

両親のことが大好きだったんだなって思った。
だから、そんな大好きだったお母さんに言われたら——。

「うん。俺、戻りたい」

そうなるのは当たり前だと思った。
そうして、朱莉は私たちの前から姿を消した。
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