いじわる主治医は、私にだけ甘い
旅館に入ると、重厚な空間で、なんか触って壊したらとんでもない金額が請求されそうな美術品だらけの、きらびやかな所だった。

「桐ヶ谷様ですね、伺っております。本日は、桜の間、桔梗の間をご用意させていただきました。ごゆっくりお過ごしくださいませ」

ということで、私が桜の間、慶人が隣の桔梗の間に入ることになった。
浴衣も貰ったので、着替えようかなと間口を開けると、私は固まった。

「よっ、冴。待ちくたびれたぞ」

「な、なななななんで、彩人がいるの!?」

「午前の診療で打ち止めにして、車で高速飛ばしてきた。お前らはロマンスカーやらなんやらゆっくりしてたからなぁ」

「いや、そういう方法ではなく!」

「だって嫌だろ。兄さんはそういう奴じゃないって分かってるけど……」

ドンと壁の方に押し寄せられる私。顔も近い。

「何かされてないよな?」

「う、うん……」

髪の毛を手で梳かれて、頭を抱かれる。

「俺の冴が兄さんにとられたらと思うと、気が狂いそうだ」

「彩人、私、ちゃんと言ったよ。彩人が好きだからごめんって」

「そうか、偉い。よくできました」

もっと強く抱きしめられたら、そのぬくもりにああここがやっぱり自分の場所だと確信する。

安心できて、信頼できて、全てを預けたくなる場所。

それは彩人だけ。

「ねぇ……」

甘えたように見つめると彩人はそのまま唇を奪ってくれた。
私も返すようにたどたどしくキスした。
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